シーナに仕事とかあったっけ?
「武器屋さん武器屋さん」
「!……はぁ、あんだよ。シーナかよ」
剣のマークが描かれた簡素な看板、そして簡素なお店。
そこに座る中年男性が一人、私の顔を見てあからさまに嫌な顔をする。
「険しい表情作るの上手くなりましたね?」
「お陰様でな。…んで、何の用だよ」
「いえ、少し暇になりましたので、暇仲間に声をかけてみました」
「うっせぇ、…でもなぁ、ほんと最近冒険者と会話してねぇんだよ」
「なんででしょうねぇ」
「みんなモンスタードロップで装備集めやがるしよぉ、冒険者同士で装備売り買いもすんだよ。ノーマル性能しか置いてない俺の店を見に来る理由が無いわけだ。…存在意義が分からなくなるよ」
「へ、へー。あ…あははは」
言えない、その原因の一つは私であることを。
私は町中の冒険者の情報を良く聞いて回る。そして初心者に得意気に話すのだ。
初心者にお勧めのドロップ装備は特に人気のある話題だったりする。
そして初心者にも集めることが出来る素材集めの情報。
ブラックスミスの冒険者に渡せば安く特殊性能の武器を作ってもらえる、なんてのも初心者に話すと食い付きの良い話題だ。
そのお陰で私は新米冒険者に人気のあるお姉さんというポジションを手に入れた。
「で、でもほら。道具屋さんのお姉さんは人気ありますよ?」
「そりゃ消耗品は人気あるだろうよ…」
「あははは…、ちょ、ちょっと道具屋さん見てきますねー、何か秘訣あるかも」
私は逃げるように足早に武器屋を後にした。
「道具屋さん、道具屋さん」
「あー、シーナぁ、いらっしゃい。ポーション買ってくぅ?」
小瓶の描かれた看板の小さなお店。そして気だるげなお姉さん。
「いりません、使いませんし」
そもそもNPCはお金を使わない。
「…道具屋さんは冒険者に人気ありそうですよね」
「あー、あいつらポーションあほみたいに買っていくからねぇ。回復効率よりもゴールド効率優先するから重さ制限ギリギリまで買っていくのよ。で、無くなったらまた来るし、冒険者とはかなり喋るわねぇ」
「あのー、すみません」
そこに一人の冒険者がやってきた。
「あらいらっしゃい。さっそく来たわね、シーナごめん、また後でね」
「どうせだから仕事見させてもらいます」
やってきたのは青銅の簡素な鎧を来た青年アバターの冒険者。
「まずこれ買い取ってもらえますか」
そう言って冒険者は次々とアイテムを並べていく。
モンスターのドロップ素材を売るのも冒険者の貴重な収入源なのだ。
「えっと、…ビッグフロッグの体液30個、……ギガントトードの体液6個、………ローパーの触手23個、い、以上でよろしいですか」
「はい!」
「はい、5140ゴールドになります」
「それからポーション、百個ください」
「あ、はい、ポーション百個、どうぞ。3000ゴールドになります」
ポーション一瓶は拳程度の大きさだ。それを袋に詰め込んだ冒険者は一瓶だけ目の前で飲み干すと良い笑顔で去って行った。
………。
「あーもう!ベタベタする!」
道具屋さんは受け取った素材を大きなゴミ箱へ。
それはもう華麗なフォームで豪快にダンクを決めた。
バシーン!と叩き付けられた体液と触手は光となって消滅していく。
「えええええええええええええええええ!?」
「もー!モンスター素材って他にも体の一部とかキモいのばっかで嫌になるわ」
一部始終を見ていた私は呆気に取られてしまった。
「ど、道具屋さん?それって棄てて良かったの?」
「へ?うん。設定上は用途が書いてあるけど、こんなんたくさんあっても…ねぇ?」
「うん…確かに。でも冒険者の前ではやらないでくださいね?」
「もちろんよ」
そう、この世界はゲームである。
その現実を見つめ直す出来事だった。
「さて、私も仕事に戻りますね」
「シーナに仕事とかあったっけ?」
「歩き回って冒険者と世間話するのが私のお仕事です」
「あははは、頑張ってね」
日常パートもう少し続きます。