ボ…ボス居た!!
ゴブリンの集落に比べるとオークの集落はとても広かった。
岩と木に囲まれた大きな集落。
豚顔の巨漢があちこちをウロウロと歩き回る。
オークと一言で言っても持ってる武器は様々だった、斧、槍、剣、棍棒。
そしてここは冒険者に人気の狩り場でもあるようだ。
みんな中級者以上だろう、鋼素材以上の立派な装備を身にまとっている。
僕の装備のなんと見窄らしいことか。
武器だけは規格外なわけだが…。
冒険者が多いという事はミスティルテインを派手に乱発する訳にはいかない。
チーターだと疑われても弁明の余地は無いだろう。
「来たけど、どうすんのさ、お兄様」
『お兄様はやめろ。…そうだな、不振なオークは見当たらないな』
「ここまで来ておいてそれかぁ、じゃあ帰っていい?」
『もう少し待て』
「へいへい」
僕はステルスで移動しながらマップの端に移動する。
あとはもうミスティルテインが納得するまでオーク狩りだ。
他の冒険者が来ない端っこで、はぐれてきたオークにミスティルテインを投げる。
射程内に入ったらスローイングエッジ。
射程内に入ったらスローイングエッジ。
射程内に入ったらスローイングエッジ。
射程内に…、何回やっただろうか。
他の冒険者がどんどん帰っていく、そうか、ログアウトするのか。
冒険者達は外の世界で本当の生活を送っているのだからずっとはいられない。
仕事、学校、家事、睡眠。冒険者には色々な制約があるという。
NPCにはその全てが存在しない。
…外の世界には僕は存在していないのだから当たり前だけど。
とは言っても冒険者達も減りはするが居なくはならない。
正確には時間帯によって人が入れ替わる。
僕はそれを眺めながらひたすらオークを狩った。
レベルアップのファンファーレも何回聞いた事だろうか。
確認してみるとレベルは30まで上がっていた。
「なぁ、そろそろ良いんじゃないか?」
それは自分の剣、ミスティルテインに投げ掛けた言葉。
『…うむ、あまり長居するとボスが湧くかもしれんしな』
ミスティルテインに言われハッとした。
「ねえ、ミスティルテイン。僕たち長いことここ居るけど、ボス見てないよ」
『まぁ、端っこだしな、見えないとこに湧いたんじゃないか?』
確かにそうかもしれない、しかしボスが湧いた様な喧騒も無かった気がする。
ボスが湧けば僕から見える範囲にいた他の冒険者が騒いでもおかしくないはずだ。
「ミスティルテイン、ボスもマップ移動できたりする?」
『そんなことが出来たら一大事だろ』
「そう…だよね」
では何故ボスが湧かないのだろうか。
そういえば…、どこからどこまでがオークマップなのだろうか。
僕が居る端っこは本当に端っこなのだろうか。
密集した岩と木に囲まれたこのオークマップ、その内側しか見ていない。
自分の背後は…岩だ。そして回り込もうにも密集した木々に阻まれる。
…この裏側はどうなっているのだろうか。
この世界はオープンワールドだ、行けない事もないのではないだろうか。
「ねえ、岩の…っていうか背景オブジェクトの強度ってどんなもんかな?」
『さぁな、木とかはたまにモンスターの攻撃で倒れるけど、演出で壊して良いオブジェクトと壊してはいけない障害物とでは強度に差があるだろう』
「なるほど、強度設定は一応あるんだね」
『どうする気だ?』
「こうする」
僕はミスティルテインを岩に宛がう。
ミスティルテインから伸びた無数の蔓が岩に張り付いて脈打つ。
相手の強度を奪うミスティルテインの能力、いつ見てもキモかった。
『岩の強度は101だな、プレイヤーの武器では破壊できない設定値だ』
「吸収できた?」
吸収したところでミスティルテインの強度限界は10なのだが、今はそれが目的では無い。
『ああ、今の強度は0だ』
ミスティルテインで強度を奪っても形は崩れない。
攻撃では無く純粋に数値だけを吸っているのだ。
「よし」
ゴブリンキングから手に入れた紅いダガー、ブラッディグレイスで岩を切り裂く。
岩はスーッと抵抗無く刃を通した。
頭が通るくらいの穴を開けて覗き込む。
その時、僕が見たものは。
王冠を被った大きなオークだった、普通のオークの1.5倍はあるだろう。
取巻きも連れずに一人でそこに居たが紛れもなくボスだ。
「おわぁぁぁぁ!!」
慌てて頭を引っ込める。
『なんだ?どうした?』
「ボ…ボス居た!!」
『そんなわけが…』
「本当だって、ほら、その岩のむこ…うああ!」
『え?なんだ?…うおっ』
今度はボスが穴からこちら側を覗いていた。
『オークキング!アレク!先手必勝だ!』
「う…うん」
しかしボスは穴の前から消えてしまう。
僕は慌てて穴を広げるがそこにボスは居なかった。
…いや、居た。
背景オブジェクトの後ろ側をドスンドスン走って逃げている。
呆気に取られて見ているとミスティルテインが騒ぎだす。
『あいつだ!確実にフレームアウトしている!おそらくあいつが原因だろう』
「ええ?」
フレームアウト、それは感情システムの限界設定を越える現象。
『ボスは雑魚に命令できる。野放しに出来ない。追え』
「はいはい、分かりましたよお兄様」
『お兄様はやめろ』
オークキングを走って追い掛ける。
「なんであいつ逃げてんの?フレームアウトと関係あんの?」
『ある。モンスターは死ぬ度に初期化されてリスポーンする。知識維持してたらプレイヤーは勝てないだろ?そういう仕様なんだ。つまりフレームアウトしたモンスターも倒されれば再びフレームに納まるんだ。奴はそれから逃れようとしているのだろう』
言われてみれば確かにそうだ。
モンスターが自分がどうやって負けたのか覚えていたらプレイヤーはどんどん不利になる。
そしてあのオークキングはせっかく手に入れた感情を失いたくないのだろう。
感情を得るのは思考を得るのに等しい、あのオークキングは賢くなっているはずだ。
「なるほど、理解した。でもなんであいつ僕みたいな低レベルな奴から逃げてんのさ」
『岩を切り裂けるような奴が襲ってきたらアレクならどうする?』
「そりゃ逃げる…、なるほど、理解した」
思考能力を得たならそれがどれだけ異常か理解できるだろう。
オーク族は元々そこまで足が早くない。
加えてこちらは冒険者の中で二番目に足の早いシーフだ。
追いかけっこならこちらに分がある。
ちなみに一番足が早い冒険者はシーフの上位職、アサシンだったりする。
逃げ切れないと践んだのかオークキングは踵を返しこちらを睨む。
そして大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間マップが震える事となる。
「ブゴォォォォオオオオオオオアアアア!!!!」
それはあまりにも大きな叫び声。
マップ全体に響き渡る程の雄叫びだった。
『来るぞ!』
オークキングの突進に合わせてスローイングエッジを撃ち込む。
ミスティルテインの刃はオークキングの額を綺麗に撃ち抜いた。
これだけ苦労させておいてオークキングはいとも容易く崩れ去る。
「…簡単過ぎじゃない?」
レベルが一気に5つも上がった。僕としては美味しい。
『…』
「どうしたん?」
『いや、さっきの奴の雄叫びがな…』
「気にし過ぎじゃない?」
『…うむ』
崩した岩の所まで歩いてオークの集落の内側に戻る。
するとそこの景色は一変していた。
場所は変わっていない、だが居るはずのモノが居ない。
「…オーク、どこにもいない」
Gzゲーム小説コンは撤退しましたがこれは続けますよー。
ちなみにオークキングはどうやって障害物を越えたかですが。
取巻きに押し上げてもらい岩の上を越えました。
だから取巻きの雑魚がいなかったのです。




