分かってたよ、ちくしょう
ゴブリンマップをステルスを展開しながら進む。
なるほど、ミスティルテインの言う通りだ。
先制攻撃でスローイングエッジを撃つだけの簡単な作業だった。
シーフは攻撃力が低い、本来ステルスは一対一等の状況を見極め攻撃を仕掛けるためのスキルに違いない。あるいは偵察だ。
しかし一撃必殺の火力があれば話は別だ。
先に見付けて先に撃つ、敵は何も出来ずにミスティルテインの餌食となっていく。
そしてゴブリンが倒れる度にレベルがさくさくと上り今や20だ。
まぁ、初期はレベルが上り易いだけだからそろそろ上がらなくなるだろう。
今なら装備整えれば普通にソロでゴブリンに勝てそうな気もする。
「なぁ、ミスティルテインの攻撃力って実際どんなものなの?」
ミスティルテインの攻撃力は【FFF】と書かれておりバグった状態なのだ。
『あの数字は別にバグじゃないからな?』
「そうなの?」
『というか、AIなら16進数くらい分かるだろ』
「…あ、てことは、4095?で、スローイングエッジは重量を乗算するから…20475!?流石に酷くない!?」
攻撃力三桁の世界で四桁の攻撃力を持つ武器。
更にスキルで五桁の火力をほぼノーリスク、これは異常というしか無いだろう。
『神にダメージを届かせる為には理論値を超える必要がある。しかし確かにやり過ぎたかもしれん。あまり人に見せびらかすなよ?』
「そうだね、分かったよ」
その後もさくさくとゴブリンを仕留め先に進む。
木々は密度を増して行き、やがて開けた場所に出た。
小さな小屋が立ち並び、焚き火の周りにはたくさんのゴブリンがいる。
『集落に出たな、流石に囲まれたら不味い。迂回しながら先に進め』
「そうだね、ミスティルテインじゃ一対一でいっぱいいっぱいだ」
『地力も上げろよ』
「分かってる」
ステルスとスローイングエッジのチートスキル以外にも攻撃回避スキルや短剣術等のスキルも上げていく、これである程度は戦えるはずだ。
ソロ向きなシーフは案外僕のスタイルに合っているのかもしれない。
『…ん?不味いな。ボスが湧いた』
「え?」
『ゴブリンキングだ。ボスはステルス見破るぞ』
確かに、焚き火の近くに羽飾り等を付けたやたら派手なゴブリンがいた。
大きさはゴブリンよりも一回り大きい程度、手には血に濡れた紅いダガー。
「どうしたら良い?」
『先手必勝だ、やれ』
「ええええ?」
こうなりゃもう自棄だ。お兄様が言うのだから信じるしか無いだろう。
というか、ステルスが効かないのだからそれ以外に手は無かった。
ゴブリンキングはさっそくこっちに気付き走ってくる、時間的猶予も有りはしない。
「スローイング…」
『待て、引き寄せろ…、もう少し、もう少し。…行け!』
「エッジ!」
ほぼ眼前まで迫って来ていたゴブリンキングだったがこっちの攻撃を見極め回避行動を取る。
引き寄せて命中率を上げたにも関わらず、ミスティルテインの刃はゴブリンキングの頬を掠めるだけに留まった。
「そんな…」
呆然とする僕の腕にミスティルテインの蔓が絡まる。
『十分だ。良くやった、引き戻せ』
「え?」
突如目の前で倒れ込むゴブリンキング。
掠りダメージだけで既に虫の息になっていた。
ミスティルテインを手元に戻すと反す刃でゴブリンキングは更に切り刻まれる。
『これくらいの相手なら掠めるだけで十分』
「ボスをほぼ一撃かよ…」
ファンファーレが鳴り響きレベルが上がる。
レベルは一気に5つも上り25になっていた。
それともう一つ、足元にドロップした紅いダガーを拾い上げる。
【ブラッディグレイス】【毒竜の牙】
【攻撃力085】【ダガー】
【重量2】【リーチ01】
【強度50】【適性レベル30】
【マンイーター:人型特効+50%】
【持続性のある弱い麻痺毒】
『人型特効か、レベルは少し足りないが大丈夫だろう、ちょうど良いじゃないか』
「どういうこと?」
『前を良く見ろよ』
「前……、うあああああ!」
忘れていた、今自分は見つかっている状態だった。
ゴブリンが群れを成して襲ってくるのが見える。
敵性レベルに達していないブラッディグレイスを装備した状態でステルスも発動すると流石にAPの消費が間に合わない。
『囲まれたら終わりだぞ、上手く逃げながら戦え』
「簡単に言うなぁ!もう!」
……………
………
…
ボス戦よりきつかった雑魚戦は他のパーティの乱入という形で幕を閉じる。
手伝ってもらいなんとか倒しきるまでに至った。
助けに来てくれた二人組がかなり強く事態はすぐに収拾した。
どれぐらい強いかって?
上半身半裸なのに、素の耐久力だけでゴブリンのリンチに耐えるくらい。
ムキムキなマッチョアバターで半裸の男達。
どういう意図で半裸なのかはさっぱり理解できない。
やはりNPCにはプレイヤーの感情を理解することは難しいのだと思い知らされた。
「はっはっはぁ!大丈夫かね!?男を助けるのは気が乗らないが、助けないのは流儀に反するのだよ!レベルに見合った狩り場を探したまえよぉ!」
豪快に笑うゴリマッチョの半裸男、ナイトの上位職のパラディン。
耐久力に優れ、片手武器を扱う職業だ。
「流石兄貴!カッコいいでござる!」
ござる?変な言葉遣いの細マッチョの半裸男、ウォーリアーの上位職のグラディエーター。
両手武器を扱い豪快で派手な攻撃を行う近接火力の華だ。
「お二人ともありがとうございました。ほんと助かりました」
「なんのなんの!なんなら安全なマップまで送ろうか?」
「いえ、囲まれなければ大丈夫です」
「そうかそうか!では我々はこれで!達者でな!」
「あ、名前。教えてください。僕はアレクです」
「うむ!俺の名前はアスベルだ!」
「拙者はクラムボンでござる」
フレンド登録すると二人は去っていった。
変な人達ではあったが良い人には違い無さそうだ。
『…さて、行くか』
「そうだね、そろそろシニオンノビスの町に…」
『行くのはオークの集落だ』
「…うん、分かってたよ、ちくしょう」
ドラ○エの序盤~中盤でF○ の終盤火力出してる感じです。
ちなみにこのフェイトマイルの世界では最高クラスの武器の攻撃力が300~500くらい。




