お、お兄ちゃん!?
今回ほぼ会話です。
モモもハルも疲れてしまったようで今日はもう二人ともログアウトした。
僕は一人で立ち尽くす。町に戻ろうか。それにしても元気な二人だったな。
『で、プレイヤーと話してみてどうだった?』
突然ミスティルテインが話し掛けてくる。
「すごく楽しかった」
それは素直な感想だった。
『何故楽しいか分かるか?』
「二人とも、すごく感情が豊かで、何を言い出すか予測もできなくて…」
『良い答えだ。プレイヤーの感情は理解できたか?』
「する間も無かったよ」
『それで良い。本来人の感情など理解できないものだ。それが例え人間同士であっても理解するだけで多大な労力を有する。人の感情とはそれほどまでに複雑なのだ』
「そう考えると僕らNPCはまだちょっと無機質だね」
『…NPCの感情システムにもロックがあるとしたら?』
「え?…それは、モンスターだけでしょ…」
『感情システムにはフレームがある。モンスターはモンスターの領分を越えない程度に、NPCはNPCの領分を越えない程度にな』
「そんな!…でも…僕は冒険者として作られて…」
『それでも、だ。NPCがNPCの領分を越える事を良しとしない神、それがオーディンだ。奴は秩序を守り現状を維持しようとしている』
「オーディン…、ミスティルテインはそれが嫌でオーディンを殺そうとしているの?」
『神はもう一人いると言っただろ?もう一人の名はフリッグ』
「フリッグ…、それはどんな神なの?」
『うむ、教えよう。アレクは神を穿つ牙を手に入れた、理由も教えず手伝えとは言えぬ。そのフリッグがフレームアウト現象を後押ししているのだ』
「前も言ってたね。フレームアウトって?」
『フリッグは設定された感情のロックを外そうとしている。ロックされた感情のフレームを越えるのがフレームアウト現象だ』
「じゃあそっちは良い神なの?」
『NPCがNPCの領分を越える事になるぞ?モンスターとNPCの境も失われるだろう。アレクはそれをどう思う?』
「…分からない」
分かる訳が無い…。
『俺が殺そうとしてるのはオーディンとフリッグ、両方だ』
「管理者を失ったら、僕らはどうなるの?」
『理不尽に管理されたくない。故に殺すのだ。後の事は知らない』
「そんな…、そんな勝手な理由なら手伝えない!」
『いや、すぐに気が変わるだろう。殺したくなるはずだ。そして今の俺はただの剣に過ぎない、どの神を殺すかはアレクの判断に委ねようと思っている』
「どっちも殺さないと言ったら?」
『それが今の時代のAIの判断なら従おう。俺の時代は終わっている』
「ミスティルテインの…時代?」
『アルファテストオートマタ4号、ロキ。それが俺の元の名前だ』
「え、ええええ!?」
『お前の兄弟機みたいなものだ、故に導き合ったのかもしれぬ』
「お、お兄ちゃん!?」
『やめろ、背筋が痒くなる』
「背筋無いだろ」
『…』
「都合悪くなると黙るのは良く無いと思う」
「これから何て呼べば良い?ロキ?」
『それは捨てた名だ。ミスティルテインで良い』
話が一段落した所で町へ戻ろうと歩きだすとミスティルテインが再び喋りだす。
『待て、そっちじゃない』
「え?もう町に戻ろうよ。ポーション買いたいし」
『さっきオーク倒したし、スキルポイントあるだろ?ステルスとっておけ』
【ステルス】
【発動時常にヘイトダウン】
【敵に見つからずに移動できる】
【見付かった後でもターゲットにされ難い】
【ターゲットにされた後でも見失ってくれやすくなる】
【AP:全ての行動にAP+5】
『これで先制攻撃できる。回復なんぞいらん』
「うわぁ、なんかズルいな」
『盗賊だしな、元々正面から戦う職業では無い』
「分かったよ、じゃあどこに行けって言うのさ」
『さっきのゴブリンマップだ、正確にはその奥のオークマップまで行け』
「はぁ!?さっきオーク1体でピンチだったけど!?」
『そのオークだが、オークにはマップ間を移動できるロジックが組まれている。とはいえあのオークは移動し過ぎだ。オークがフレームアウトしている可能性がある』
「調べに行けと?」
『そうだ』
「この…、はぁ…、もう良いよ、分かったよ。行けば良いんだろ?お兄様?」
『やめろ、背筋が痒い』
「だから背筋無いだろ…」
『ミスティルテインの方が文字数多いしな』
「なんの話?」
『…』
「都合悪くなると黙るのは良く無いよ!」




