おまえはまだフレームの中にいる
「ねぇ、アレク。どうしてシーフにしたの?アレクが持ってるあの剣、バスタードでしょ?ナイトでもウォーリアーでも、もっと活用できる職業あったのに」
僕はシニオンノビス西のマップに位置する花畑にいた。
転職した事をマーガレットに報告しに来たのだ。
そしてやはりと言うべきか、職業に疑問を抱かれた。
まぁ、そりゃそうだろう。最初は僕だって分からなかった。
「装備してもどうせ使えないし。レベル90なんて気が遠くなるよ。それに…、あの剣、ミスティルテインの使い方も分かったしね」
ミスティルテインの事については深くは説明しない方が良いかもしれない。
ミスティルテインの話を聞いていて理解した、あれはこの世界においても異質な物だ。
「…そう、そんな名前だったのね」
「うん、神々の祝福を受けぬがゆえに神々を殺しうる剣だって言ってた」
「言ってた?」
「あ!…書いてあった、その…ステータスに」
いきなりやらかしたが上手く誤魔化せただろうか。
僕は僕が思っている以上にポンコツなのかもしれない。
「…そう、なんか不吉な剣だったのね」
「そうかな?」
「そうでしょ?」
「神様って、誰だと思う?」
「…オーディン」
「そうだね、それで良いと思う」
「?」
マーガレットは僕が何を言いたいのか分からない様子でいた。
それはそうだろう。僕だってまだ分からない。
ミスティルテインが教えてくれるのを待つしか無いのだから。
「じゃあ、僕はそろそろ行くね」
そう言って立ち去ろうとした時、自分の動きに制限が掛かった。
動こうとした方向に動けない。
マーガレットが僕の腕を掴んでいた。
「…どうしたの?」
「あ、…いえ、ごめんなさい」
そう言って僕の腕を離すマーガレットの手は震えていた。
それが意図する事は僕には分からない。
…寂しい、のかな?
一人でずっとここに居るのだ、話し相手の僕が離れるのが寂しかったのかもしれない。
「…また来るから、ね」
「嫌だよ…、寂しいよ」
「え?」
やはり寂しかったようだが…、どうにも様子がおかしい。
僕がNPCである事は知らないはず。
だとしたら、プレイヤーだと思っているにも関わらず引き留めようとしている?
それはNPCとしてやってはいけない行為であるはずだ。
「大丈夫…、僕はまた来るし、どこにも行かないから」
「…嘘だよ、アレクはログアウトする。この世界のどこにもいない」
「大丈夫、僕はこの世界にいるから」
「…うん」
僕はログアウトできない。
嘘は言っていないが本当の事も言っていない。
マーガレットが何故あんな言動をとったのか、分からないまま僕は立ち去った。
『アレク、しばらくあの女と関わるな』
マーガレットが見えなくなるまで歩いたところでミスティルテインが話し掛けてくる。
「また唐突だね?どうして?」
『フレームアウトしかけている。その要因はおそらくおまえだ』
「フレーム…アウト?」
『アレクにあの女の感情は理解できたか?』
「へ?そりゃぁね、寂しいんでしょ?」
『やはりな、おまえはまだフレームの中にいる』
この剣はいったい何を言っているのだろうか。
どうにも理解し難い。
『理解出来ないならそれで良いさ』
「何さ、その自分は何でも知ってますみたいな物言い。気分悪いなぁ」
『知りたいならパーティプレイでもしてみろ。普通のプレイヤーとな』
「う…、駆け出しシーフにはハードル高いなぁ」
僕の今の装備は布製の軽装に盗賊の外套、そして青銅のダガー。
鉄のショートソードの方が攻撃力は高いがシーフは短剣に補助スキルがあるため武器を変更した、慣れておいた方が良いだろう。
つまり、駆け出しのシーフ感丸出しだ。
パーティプレイは流石にハードルが高いんじゃないだろうか。
『同じように駆け出しの冒険者となら問題あるまい?』
「もー!そんなに簡単にパーティなんて見付かる訳無いよ!」
「え?何?パーティ探してるの?」
「へ?」
そこに居たのはアコライトの女の子、もう一人ウォーリアーの女の子も居た。
ミスティルテインとの会話を聞かれていたようだ。
会話とは言ってもミスティルテインは僕に直接言葉を送ってくるから独り言にしか聞こえないだろう。まぁ、だからこそ普段は隠れて会話している訳だ。
「うんうん、分かるー。パーティって意外と簡単には見付からないよねぇ。臨時パーティ組もうにもある程度強く無いとご免なさいだし?世知辛いよねぇ。私もハル…ああこの子ね。ハルが居なかったら大変だったかもー」
「は、はぁ」
それは随分と良く喋る女の子だった。
おしとやかなアコライトの装備にそぐわない活発さ。
この子がウォーリアーやった方が良いんじゃないだろうか?
「ちょっと、モモ…、なに初対面の人に馴れ馴れしく話し掛けてんの」
「えー?良いじゃん?ハルは固いなぁ、MMOの出会いは一期一会なのだよ」
ハルと呼ばれているウォーリアーの方がおとなしい。
ちぐはぐな二人だったけど仲が良い事だけは伝わってきた。
「で?君も駆け出しの下位職だよね?実はうちらもなんだー。物は試しでしょ?一緒に戦ってみない?これも何かの縁だしさ」
「え?微妙な前衛が一人増える事になるけど良いの?」
「あはははは、気にしすぎー!そりゃ火力盛りの後衛が欲しいけどね。そんなんどうでも良いじゃん?楽しい方が良いじゃん?」
正直渡りに船だ、乗らない理由は無い。
それにしても…、これが…プレイヤーか。
「僕で良ければ、お願いしたいです。名前はアレク。よろしく、モモさん、ハルさん」
「はい、よろしくー!モモで良いよ?」
「…よろしく。私もハルで良い」
やっと、やっと普通のプレイヤーと絡ませる事が出来そうです。
そして次回は初のパーティプレイですね。
火力前衛と遊撃前衛とヒーラー。
…タンクと後衛が欲しくなりますねぇ。




