喋ったあああぁぁぁぁ!?
体力が回復した事を確認すると僕は再び歩き始めた。
そしてようやく気付いた。
「ここ…南じゃないな」
常備アイテム、地図。
広げると自分の位置が大まかに分かる、明らかに北だ。
地図があるならこの森も出られるはず、普通ならそう思うだろう。
しかし初期アイテムの地図にそこまで期待をしてはいけない。
このマップに居る、それは確かなのだが細かい道や現在地が表示されないのだ。
そして当然マッピングなどはしていない。
初期アイテムだけで迷い込んだ初心者に取れる行動、それは2つ。
自力で脱出するか、あるいは死に戻り…。
力尽きると経験値の損失というペナルティを負う変わりに最後に訪れた町に帰れる。
そして僕の経験値はゼロだ。何も怖くない。
しかしどうせならもう少し歩いてみても良いだろう。
しばらくここには来ないだろうし、探索してみるのも一興だと思った。
僕には時間の制約が無いのだから。
そして、とうとう、いや、早すぎると言うべきか。
僕はそれを見つけてしまった。
導かれる様に歩き続け、ふと足を止める。僕がした事はそれだけ。
見付けた物は何の変鉄も無いただの違和感、普通なら気にも止めない様な違和感。
それは樹木の枝に付いた質感の違う枝の束。ヤドリギ。
大きな木の枝から、違う小さな木が絡まって生えている様な、そんな違和感。
その枝が下に垂れ、ギリギリで手の届く位置にある。
僕はそれに懐かしさを感じて手を伸ばす。
その次の瞬間、ヤドリギがほどけて手に絡み付いてきた。
「え?わ、わ、わ、わわわわわ」
僕は狼狽えたが不思議と嫌な感じはしなかった。
ヤドリギは次第に剣へと姿を変えていく。
持ち手には蔓の様な装飾、植物を思わせる色に模様。
それは明らかに異質な剣だった。
更に、異質なのは見た目だけでは無かった。
『俺はミスティルテイン。神々の祝福を受けぬがゆえに神々を殺しうる剣』
………。
「喋ったあああぁぁぁぁ!?」
『俺に気付く奴を待っていた、名前を言え』
ミスティルテインと名乗る剣は至って冷静だ、よく考えたらこの世界はゲームなのだから喋る剣がいたって良いのかもしれない。
AIが売りならAIを搭載した装備だってあるだろう。
「…ほへー、剣て喋れるんだなぁ、口も無いのに」
『柄から蔓が生えているだろう?それがおまえと接続してるんだ、俺の声は直接おまえに送信されている。…で、名前は?』
「それちょっと怖いな…、僕の名前はアレクだよ」
『…アレク?…もしかしておまえアルファテストオートマタか?』
「え!なんで…って、そういえば君もAIなんだし、知っててもおかしく無いか」
『なんてこった…、よりにもよって…、いや、これも因果か』
「あ!そうだよね…、君ユニーク武器だよね。NPCの僕が持ってちゃダメだよね」
プレイヤーが欲しがるような物をNPCが持っていてはいけない。
それは冒険者達の楽しみを1つ奪ってしまう事に他ならない。
『いや、問題ない。むしろおまえで良かった』
「…どういうこと?」
『気にするな、いずれ話す。俺はおまえの物だ』
「そっか、いきなり凄い物手に入れちゃったな」
『…』
それ以降ミスティルテインは黙ってしまったので僕もそれ以上は話し掛けるのを止めた。
…さて、新しい武器、しかも強力な武器を手に入れたらやりたくなる事がある。
そう、試し斬りだ。
今ならあのモンスターにも勝てるかもしれない。
僕は先程負けた植物型のモンスターを見付けると剣を構えてにじり寄る。
「ふふふ、今度は負けないぞ」
手にはあのミスティルテイン。負ける気がしない。
剣を振りかぶり、そして降り下ろした。
しかし何故か真っ直ぐ降り下ろす事が出来ずに剣に振り回されて体勢を崩す。
モンスターに向かって体当たりする形でダイブしてしまった。
「あっれぇ…、…あ」
目の前にはモンスター、此方を睨み反撃してくる。
僕の耐久値が再び半分以上消し飛ばされた。
「うああ、待って!待って!…あれ!?体動かない!」
剣を一度振っただけでアクションゲージは空っぽ。
次の動作を行う事が出来なかった。
そうこうしているうちにモンスターがもう一度攻撃の構えに移る。
「あ、待って、話し合おう、ね?ね?」
無慈悲に飛んでくるモンスターの攻撃、僕は倒れて空を見上げていた。
そして目の前に浮かんで来る赤い文字。
【町に戻りますか?】
待ってても意味が無い。人も通りそうに無い。
僕は大人しく町に帰還した。




