夏の幻
それは、夏のある日の出来事だった・・・。
いつものように自宅と会社をつなぐ坂道にさしかかった時の出来事である。
- あれ?
僕が思わず自転車を止めたわけは、なぜかいつもの公園の光景が、違うものに見えたからだ。いつもと変わらぬ光景なのだが、僕の目にはなぜかその光景が違うものに見えていた・・・。
それは、多分いままでの僕と今日の僕の心境の変化のせいかも知れない・・・。
僕は、公園のベンチまで進と、そっと腰を降ろした。
- たま~にはこういうゆっくりとした時間がほしいものだ・・・なんて落ちつく風景なんだろう・・・。
そんな幸せな事を考えながら、ゆっくり煙草に火をつけた。
- くぅ~! うまい!
心の中で、そんな事を考えていた。
さっきまでの胸のもやもやが嘘のように、僕の心は夏の空の様に晴ればれとしていた。
僕は、昨日彼女と別れたばっかりであった。僕の一方的な別ればなしであったが、別れ際の彼女の泣き声と必死に僕を引きとめようと努力していた彼女・・・それを押し切った僕・・・。
別れは必然的なものであった。少なくとも今の僕たちには・・・。
そう思う事で、僕の心は吹っ切れていた。
僕が公園に落ち着いて、一時間位だろうか?
急に雨が振りだし、僕は雨を凌ぐために屋根のあるベンチの方に移動した。
- なんで雨なんかふるんだ? せっかく人がいい気分だったてのに・・・
雨につられ、さっきまでの僕の晴ればれとした心は、ジメジメとしたものに変わっていった。
- あいつの心の中も、こんな感じなのかな・・・
そう思ったら、無償に心が痛かった・・・。
そもそも別れた原因は、僕の我がままとしかいいようがなかったのかも知れない。
彼女の笑顔に、そして僕を信じるひた向きさに、僕の弱い心が耐えられなかっただけなのである・・・。
- 俺はおまえが信じるほど、いい人間ではない・・・。俺は悪なんだ・・・。
おまえの全てを壊したくなるときがある。
おまえを傷付けたくなる時がある。
おまえをめちゃくちゃにしたくなる時がある。
それは、おまえが大切な存在だから、おまえが僕にとって特別な存在だから・・・。
僕の愛は狂っている・・・。
僕が最後の決断をしたわけは、おまえを傷付けたくないから・・・だから・・・。
「それでもいいよ・・・」
- !!
何時のまにか、僕の後ろには彼女がいた!
「何でおまえが!? それに、なんで僕の考えがわかるんだ?」
「それは内緒だよ。ただ、その思いだけで十分だから・・・」
「早苗・・・」
「龍之介・・・お別れの時間だよ・・・」
「なにを言って・・・」
僕の言葉を遮るように、早苗の冷たく、柔らかい唇が・・・僕の唇を奪った。
- ? そういえば、なんで冷たいんだ?
僕がそう思った時、早苗の身体は、静かに幻となって・・・消えていった・・・。
「早苗!!」
僕がそう叫ぶと、どこからかかすれた声で、
「今までありがとう・・・龍之介。たのしかったよ・・・そして・・・さようなら・・・」
っと言った。
「早苗!!」
もう、返事は返ってこなかった。
何時の間にか、空がもとの青空に変わっていた・・・。
- 今のはいったい?
そして・・・早苗の速すぎる死を知ったのは・・・その後すぐであった・・・。
20年前に書いた内容なので文章があれですが、電子な世界の中で発掘して懐かしさを覚えたのでそのまま投稿します。
残酷ではないですが、一応この部類にしてみました。
下手くそですみません