もし本物がいたら
俺は霊能力者が嫌いだ。理由は以前話した通りなのだが、要するに胡散臭くて全く信用できないからだ。それに付随して、超能力者とか魔術師とかも好きじゃない。今時そんなことを名乗っている奴は滅多にいないだろうが、やはりどちらも疑わしい所が多く、詐欺師と何ら変わらないように思えるからだ。
だが、この嫌いという感情は、霊能力者や超能力者を信じられないという疑惑から生じたものである。つまり、もし本当に、本物の霊能力者や超能力者がいたのならこの考えは一転することになるのだろうか?
――まあ、ならないだろう。
そもそも、偽物か本物かなんて判断のしようがない。目の錯覚を利用したり、いろいろなトリックを仕掛けたり、人海戦術で個人情報を探ったり。とにかく人を騙し、信頼させようと思えばいくらでも方法はあるのだ。だから、どんなに本物っぽく感じても、偽物ではないという確証を得るのは不可能と言える。
それに、もし本物であると認めたとしても、今まで向けてきた負の感情が丸ごと正の感情に変わる、などと言うことはないだろう。本物だったら本物だったで気味が悪いし、危険だし、やっぱり近づきたくはない。
だが、もし相手が本物であり、かつこちらに興味津々だったとしたら。一般人には理解不能な方法を使ってくる相手から、どうやって逃げればいいというのだろうか?
「やあグレモリー、やはりこの宿を選んだか。本日も黒魔術占いは絶好調のようだな」
「確かに、これで13回連続成功ということになりますね。私もそろそろ黒魔術について本格的に勉強したくなってきました」
「……取り敢えず、俺の名前はそんな変な名前じゃない」
鬼羅旅館に入った直後、俺達を迎え入れたのは旅館の従業員ではなく、俺の姉と自立園学園生徒会で書記を務めるトマトだった。
どうでもいいが俺の姉は自称黒魔術師である。本当にどうでもいい、身内の恥である。そして書記さんは超能力や黒魔術に興味があるオカルトオタク。俺がついこの前まで受け続けてきたストレスの一端である、悪魔・超能力談義を行ってきた張本人たち。
早くも俺の心の中で、何かが折れる音がした。
わざわざこんな辺鄙な旅館にやってきた理由の半分が、というかほぼ全てが無駄になったのだから、それも仕方のないこと。
俺は考える。『逃げていても何も解決しない』、という言葉は間違いだと。そもそも『逃げれていないから何も解決しない』、と言うのが正しいだろう、と。