なにゆえここに
心霊スポット、事故多発地帯、自殺の名所、パワースポット――。
この世界には、他とは違う何か特殊な場所というものが存在する。
それはその場所の地形が原因なのか、それとも何か過去の出来事が原因なのか。
まあ正直そんなことはどっちでもいい。こんなことを言ってしまえば身も蓋もないが、事故に遭うときはどこでも事故に遭うし、自殺しようと思えばどこでも自殺できる。過去に一切因縁のない場所なんてそっちの方が少ないだろうし、パワースポットなんて所詮は気の持ちようだろう。
だから、僕がここで言いたいのは、そうした特殊な場所は人為的に作り出せてしまうということについてだ。
事故に遭うときは事故に遭うけど、より事故が起こりやすいような場所を作ることはできる。
自殺しようと思えばどこでもできるけど、思いつきや勢いだけで自殺しやすい場所は作れる。
心霊スポットやパワースポットなんて、ネットにそれらしいことを書いておけばいくらでも作れる。
で、なぜ僕がこんなことを考えているのかというと、今僕の目の前にはこれらと類似した、世にも特殊な旅館が屹立しているからだ。
どうしてこんな場所にというほど山奥に。橋一本だけが外界との連絡手段の。それはもう、明らかに殺人事件が起こりそうな雰囲気をした。本当に理解しがたい立地に存在する建物。雑誌によれば、幽霊が出ることを売りにしているとか。
この旅館にこれから一週間も過ごすのだと思うと、それだけで気が触れてしまいそうだ。
バッ君がお薦めしてきたこの旅館。名前を鬼羅旅館という、今年できたばかりの真新しい旅館である――その割には妙に古びた見た目だが。最初はバッ君が冗談で言っているのだと思い、適当に面白そうだと賛成したけれど、バッ君は本気で行きたいと考えていたらしい。僕が賛成するや否や、すぐに鬼羅旅館に電話をかけ、夏休み直後から一週間ほどの宿泊予約を取ってしまった。
僕もその時はテスト終わりということでテンションが上がっていたのだろう。それはそれでいいかと思い、特に反対することもなく旅行の準備を進めてしまった。
で、予想通りテストで赤点を取ることもなく夏休みに突入。そのまま無事に鬼羅旅館まで来てしまったわけだが……、
「こんな場所に旅館を立てた人、頭がおかしいだろ……」
今更になって猛烈に後悔していた。