ようやく夕食
グぅ~~~
勢いを取り戻して立ち上がった瞬間、盛大に俺の腹が鳴った。
気恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じる。
この旅館に来てからまだ何も食べていない上、それなりに歩き回ったのだから当然かもしれない。
「まずは腹ごしらえかな? そろそろ夕食の時間だし、食堂に行ってみようか」
くすくすと笑いながらSが言う。
「……なんか申し訳ないな。さっきから振り回してばっかりな気がするし」
「そんなことないよ。××君のおかげでなんやかんや退屈せずに楽しめてるから」
「なら、良かった……」
俺は心がほっこりするのを感じながら、Sと一緒に食堂へと向かった。
俺は考える。この世で最も大切なのは友人だと。自身が落ち込んでいるときに、そばにいて支えてくれる相手。ついこの間までは友人なんて余計な厄介ごとを増やすだけの不要な存在だと思っていた。しかし、こうして実際に支えてもらえると、友人が煩わしいだけでなくいかに素敵なものなのかを実感してしまう。
俺の生き方からするとこれは決して幸福なこととは言えないのだが、今くらいその幸せに浸らせてもらってもいいだろう。
そんな、ちょっとだけ浮かれた気分のまま食堂に到着。
しかし到着して一秒で、俺の気分はこの旅館に来てから最低最悪のものへと叩き落された。
絶対にいるはずのない、いちゃいけない、そもそもこんな辺鄙な旅館に来ることになった原因となる存在。
全身ずぶ濡れの状態で俺の妹と生徒会長は、先程俺の部屋を訪れてきた探偵気取りの男三人と揉めていた。
「だから崖を這い上がってここまで来たって言ってるでしょ!」
「何を訳の分からないことを。君達みたいなか細い女の子がこの嵐の中あの険しい崖を上ってこれるわけながない。元からこの旅館にいたのでしょう。余計な嘘はつかなくていいから真実を話してください」
「だからさっきから真実を話してるでしょ。本当に何なのこの男。この旅館に行くための橋がなくなってたから、崖を這い上がってここまでやってきたの。それが唯一無二の真実!」
「彼女の言う通りです。信じ難くともそれが真実。愛の力は時として人に信じられない力を与えるものなんです」
「いや、だからそんな妄言はいいから――」
ぎゃあぎゃあとお互いに譲らずわめき合う。
俺は部屋に帰りたい気持ちを必死に押し殺し、妹に声をかけた。




