謝れたら謝り返すのが鉄板
なぜかよく分からないけど、突然バッ君が謝罪を始めた。
特に謝られるようなことをされた覚えはないのだけど……この旅館を選んだことについて謝っているのだろうか? だとしたらなぜこのタイミングなんだと、やはり疑問が深まる。
そんなわけで、取り敢えず僕も謝罪し返すことにした。
「なんかよく分かんないけど、僕の方こそごめん」
謝罪し返されたことに驚いたのだろう。バッ君は目をきょとんとさせて僕を見つめてきた。
「何で××君が謝罪してるのかよく分からないけど、僕に謝ってるってことは僕のことをいろいろ気にかけてくれてるってことだよね。だから、わざわざ僕のことを心配(?)させちゃって、ごめんね」
「いや、悪いのは俺で……」
「いやいや、僕の方こそいろいろと申し訳ないというか……」
「いや、だからサタン君には一切非は無くて……」
「いやいやいや、何も悪いことしてない××君に謝罪をさせてしまうなんて僕に非がある証拠だし……」
「それとこれは……」
「いやいやいやいや……」
お互い一歩も譲らずに自分が悪いと主張し合う。
凄くあほらしいけど、落ち込んだ気分を晴らすには意外と役に立つ。
しばらくすると、
「普通だな……」
小さな声でバッ君がそう呟いた。
僕は満面の笑顔で頷き返す。
「そりゃそうだ。平凡な日常を送ることにかけては右に出るものはいない男だからね、僕って人間は。だから、そんな僕と会話してればどんな状況でだって何の変哲もない普通の会話をするはめになるんだよ。どう、ちょっとは元気出たでしょ」
「ああ、めちゃくちゃ元気になった」
バッ君の瞳に輝きが戻る。
作戦がうまく行ったことに喜びを覚えていると、バッ君はゆっくりと立ち上がり拳を握り締めた。
「全く、何を意味不明なことで凹んでたのか。この旅館に隠された秘密も分かったし、不可思議な少女との出会いもあった。一歩前進どころじゃなく十分前に進めてる。凹んでる暇なんてない!」
「そうそう。そもそもまだ事件が起こったわけじゃないんだし、僕たちが勝手にバタバタしてるだけだからね。さあバッ君、次はいったいどんなことをするのかな!」
「ああ。次は――」




