特別だからと言って優秀とは限らない
何やらS君が不自然なほどに喋りかけてくる。どうやら俺のことを励まそうとしてくれているみたいだが、別に落ち込んでいるわけではない。まあ多少苛ついてはいるが、結果が全ての世界である。俺の方法じゃあそこからは出られなかった。それがまぐれだろうが超能力だろうが、書記のおかげで脱出できたのだから、そこに文句はない。
どちらかというと、今俺が考えてるのは――
「サタン君。ごめんね」
「へ! 急にどうしたの?」
どうして謝られたのか分からず、S君は不思議そうな目でこちらを見てくる。
その視線から逃れるように天井を仰ぎ見ると、心の中でもう一度深く謝罪した。
――誰しも一度は自分のことを特殊な人間だと、他人とは何かが違う存在だと、考えたことがあるだろう。
これは不思議なことじゃないと思うし、むしろ一度も考えたことがない人がいればそっちの方が異常だと思う。これだけ無数にいる人の中で、自分という存在がなぜ生まれたのか。なぜ自分は今ここにいるのか。そこまで深くではなくとも、心の片隅で思い描くことくらいは普通するはずだ。
もし自分が周りと何ら変わることのない存在であるのなら、それは自分の価値を著しく貶める事実となるのだから。だが、たいていの人はすぐに気付く。自分は特殊ではないけれど、周りも特殊ではないことに。
子供の頃は、そもそも自分以外の人間に感情があるなんて考えたこともない人がほとんど。いつ自分以外の人間にも感情があることに気づくのかは人によって違うだろうけど、他者にも感情があると気付いたうえで、彼らもまた自分と同じ悩みを持っているのだと気付き始めてこの答えにたどり着く。
自分はいなくても大丈夫な存在。でも、他の人もいなくても大丈夫な存在。そんないてもいなくても大丈夫で、代わりが利く存在だけで作られたのがこの世界。だから逆説的に、代わりの利く存在がいなくなったらこの世界は成り立たないから、特殊でなくても――特殊でないからこそこの世界で堂々と生きる権利を得られるのだという結論に達する。
まあほとんどの人がそこまで考えたりはしてないだろうけど。でも、多かれ少なかれそんな考えを持っているから、人は自分の価値を信じて前に進める。そして前に進んでいけば自ずと、自分の生きる価値を付与してくれる存在に出会えたり、自分の価値について考えていられなくなるほど忙しくなったりする。
でも、世界には、特殊な人間が存在するのだと思う。代わりなんて利かない、周りの誰も持っていない何かを持った存在。自分を周りと明確に区別できる唯一無二の存在。
でも、それは非常に不幸せなこと。特殊であることは何も、万能であるわけではないから。その特殊さゆえに自分の存在を疑うことはなくとも、特殊さ故に起こる事態に対応できる力を持っているわけではないから。
だから、俺は、謝罪の言葉を述べるくらいの事しか……




