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とりあえず事なかれ主義2  作者: 天草一樹


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何も解決してないけど一時帰還

 体感時間っていうのは凄い不思議なものだと思う。

 一分が一時間に感じられたり、一時間が一瞬に感じられたり。

 大抵楽しいことに対しては時間の流れを早く感じて、苦しいことや辛いことに対しては時間の流れを遅く感じる。正直、逆だった方が便利なのになと思うけど、経過する時間はどっちにしろ変わらないわけで、逆にしてもやっぱり意味ないんじゃないかとも思う。

 そう。経過する時間は変わらないのだ。だから当然、隠し通路から脱出したからと言って一週間が経過して帰れるようになってたりはしないわけなのだ。

 勘なのか運なのか黒魔術なのか。何にしろトマトさんが隠し通路からの脱出口を発見してくれたおかげで、無事に僕とバッ君は旅館内に戻ってこれた。だけど何か進展があったかと言えばほとんどないし、変わったことと言えばバッ君の機嫌が著しく悪くなったことくらいなのだ。

 すでに僕の人生の中で一番と言っていいほどの冒険をしたわけで、これ以上トラブルには巻き込まれず家に帰りたいという思いが強い。十分すぎるほどに僕が望んでいた「刺激」を得ることはできたから、そろそろ夢から覚めて現実に戻らせてくれ、なんて考えてしまいそうにもなる。

 でも、残念なことにこれは現実だ。試しに何度か頬を抓ってみたけど、全然起きる気配がないし痛かったから。あ、でも、夢でも痛みとか感じるし起きようと思っても起きられないことってあるよね? だとしたらまだ、これが夢じゃない可能性も残ってるかも――まあ、永遠に起きられないのなら、現実と変わりなんてないだろうけど。

 というわけで、うだうだ無駄なことは考えてないで何か行動を起こしたい。ただ現状、橋が落ちて謎の少女が現れて隠し通路に閉じ込められそうになったことを除けば(結構いろいろあるな)、特に何も起こっていない。だからやれることなんてほとんどないんだけど。

 取り敢えずバッ君の機嫌をよくしようと、僕は思いつく限りの平凡な思い出を話して聞かせることにした。

 

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