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とりあえず事なかれ主義2  作者: 天草一樹


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愚者は万能じゃない

 放っておいたら永遠に続くかと思われた馬鹿二人の会話だが、

「む、今悪魔が動いた気配がした。こっちに行くぞ」

 という姉の言葉によって唐突に中断された。

 喋ってるときは大地から根を生やしているかのように動かない二人だが、一度目的が決まった時の行動は素早い。解釈の追いついていない俺とSを残して、すたすたと歩きだしていく。

 追いかけてもろくなことにならないだろうと思ってはいても、脱出の仕方が分からないことに変わりはないため、嫌々ながら後をついていく。

 それにしても、他人の考えを知ることができないのは常々不便だと思う。

 同じ時間に同じ場所にいて、見ているものも聞いているものもほとんど同じはずなのに、何を考えているのかさっぱり分からない相手がいる。普段生活している分にはそこまで気にならなくても、こういったやばい状況下では純粋に不安になる。

 どうして落ち着いていられるのか。恐怖はないのか。それとも諦めているのか。何か状況を覆すような秘策を持っているのか。

 こんなことを吐露してしまうのは恥ずかしいと思うのだが、俺は今この状況を怖がっている。何が起こるか分からに場所に、何を考えているのか分からない人。不確定要素が多すぎて、一瞬たりとも心が休まる瞬間がない。

 今目の前を歩いている彼女たちは、本当に怖いという感情を抱いていないのだろうか?

 その足取りに迷いはなく、自分の進むべき道が明確に見えているかのように歩いていく。姉貴たちもここに来たのは初めてのはずなのに、なぜ迷いも恐怖もなく進むべき道を決められるのか。

 訳もなく涙が溢れそうになる。

 だが、今この場で泣くことはプライドが――

「迷った」

 突然、小声で何かを呟いたと思うと、姉の歩みが止まった。

 驚いて立ち止まる俺たちの方を振り返ると、姉は目に涙を浮かべながら、再度言った。

「迷った……。一体ここはどこなんだ?」

 唖然として姉を見返す書記とS君。

 しかし俺は、呆れる以前にようやく姉が豆腐メンタルの持ち主だったことを思い出した。奇矯な行動が目立つし、基本何考えているか分からなくはあるのだが、根っこの部分は滅茶苦茶脆いこと。

 俺は姉の頭を軽くはたくと、ほっと息を漏らして思考をシフトした。

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