戯言も長く聞いてると意識下に入ってきそう
書記はどこから持ってきた塩なのか、そしてどんな効果があるのかについてくどくどと語っている。
だが、当然そんな言葉は俺の耳に届かない。
一縷の希望を抱いて、彼女らが通ってきた道に塩が落ちてないか探してみるも、全く見当たらない。大量の塩を撒いていったのならともかく、彼女が見せてくれた皮袋からするとそもそも持ってきた塩の量がそんなに多くなかったようだ。とすると、当然目印代わりに使った塩の量も微量なものであり、肉眼で探すのは至難だろう。
「実はこの塩とても霊力が高く、一粒でもお清めの効果は絶大だだそうです。今回この地で目覚めた悪魔はかなりの強者とのことなので、念には念をれて五粒ほど撒いておきましたが」
さらに絶望的な発言が聞こえてきた。五粒とか、ひと摘みより少ないだろ。わざわざピッタリ五粒になるよう厳選したというならいろんな意味で馬鹿というしかない。
俺の隣ではSが完全に沈黙。今にも口から魂が飛び出していきそうな顔つきになっている。が、現在自分たちが窮地に陥っていることを全く認識していない阿保二人は、楽しそうに塩談義を繰り広げ始めた。
「塩か……。悪魔に対抗するための一般的なアイテムと言えば聖水だが、清められた塩も効果があると聞く。だが、私は塩の効力については実は懐疑的なのだ」
「ほう。それはぜひとも理由を聞きたいですね。私の考えとしましては、塩は生者にとってはプラスの効果を示し死者にとってはマイナスの効果を示す神秘の物質と考えているのですが」
「そこだ。霊を祓うアイテムとして塩はよく使われているが、霊は塩がたっぷり含まれた海にも現れるではないか。水辺には霊が溜まりやすいともいうし、船幽霊などは海限定の幽霊。もし塩に浄化の効果があるなら、どうして海にも霊が現れるというのか」
「大変貴重な意見ですね。しかし、それは塩に込められた霊力の問題と思われます」
「塩に込められた霊力……だと?」
「そうです。そもそも生きている人間は霊力に満ち溢れているのだと思います。そして塩とはその霊力をもっともよく吸収する物質。ゆえに人の手が多く関わった塩であればあるほど、霊や悪魔に対する効果は大きくなるというわけです。今回私が持ってきた塩は、その中でも特に霊力を秘めた人間が丹精込めて霊力を注ぎ込んだ一品。ゆえに他とは別格の効力を持っているわけです」
「成る程。だから全く人の手に触れていない海の塩には霊を退ける力がないと。なかなか、いや、実に面白い解釈だ。人が触れただけでも霊力が送られるというなら、市販で売られている食塩にすら霊を退ける力あることにも納得だな」
「ええ。ですが、悪魔は霊よりも上位の存在であると私は考えます。ゆえにいくら霊力を込めた塩とはいえ悪魔にどれほどの効果があるのかは――」
マジで話が尽きない。放置してさっさと戻りたい気がするが、今の俺の運だと確実に迷いそうな気がする。ここはもう、霊験あらたかな塩の導きを信じてみるしか――




