悪魔探しで迷子
「何気にするな。僕を助けるのは主人として当然の責務であろう。それに悪魔を呼ぶ祭壇も無事見つけられたのだ。今の私は大変満足している」
「そ、そうですか……」
いつの間にか僕扱いされている。普通なら物申したいところだけど、相手が相手だし反論するだけ無駄な気がする。あまり彼女の言葉は真に受けず、適当に流しておくのが吉だろう。
「それで、姉貴たちはどうやってここまで辿り着いたんだ。理由はさっき言ってた通り悪魔探しなんだろうが、よくこんな秘密の部屋まで来れたな」
「何、我が第六感をもってすれば容易いこと。怪しいと目星をつけた壁に体当たりしてみたら、そのまま反転して秘密の通路へと弾き出されたのだ。後は勘に従って適当に歩いていたらオロバスたちを発見したわけよ」
彼女の発言を聞き、僕とバッ君の体が悪い予感から一瞬、硬直した。
第六感で隠し扉を見つけだし、勘に従って僕たちのもとまでたどり着いた……。一見神がかってるというか、とにかく運に恵まれた人なんだと感心しそうになるが、今は嫌な予感しかしない。つまり、彼女たちも帰り道を分かってなくて、しかも隠し扉から入ってきたってことはそこからじゃ旅館内に戻れないってことかもしれないから。
頬を冷たい汗が流れていくのを感じる。
そんな僕らの心境に気づいたのか、無表情のトマトさんが、「大丈夫ですよ」と何かが詰め込まれている皮の袋を持ち上げてみせた。
「決して道に迷わないよう、来た道に目印を置いていきましたから。すぐに旅館内へ戻れると思います」
流石に何も考えず行動していたわけでないことを知り、安堵のため息が漏れる。しかし、隠し扉を使って入ってきたのなら、そこから戻れるかは依然心配なままだ。もしその扉も一方通行だったなら、僕たちはこのよく分からない隠し通路の中を彷徨い歩かなければいけないことになる。
とはいえ、希望を捨てるのはまだ早い。僕は少し肩の力を抜きつつ、トマトさんの持っている皮袋に視線を向けた。
「その袋に入ってるものを目印に置いてきたんだよね? 中には一体何が入ってるの?」
「中身はこれです」
袋を縛っていた紐をほどき、その中身を僕らに見せつけてくる。
ちょっとだけワクワクしながら中を覗き込んだ途端、僕とバッ君は瞬時に青ざめた。
トマトさんはそんな僕らの反応に気付くことなく、淡々と中身の説明を始めていく。
「悪魔と立ち向かうにはそれ相応の準備が必要と思いまして、浄化されて霊験あらたかな塩を持ってきたのです。道中も来た道をお清めしていこうと撒いていたのですが、予想外に役に立ちそうですね。ちなみにこの塩は恐山の――」




