愛称で呼ばれてる人って何て呼べばいいのか迷う
牢屋内をくるくると歩き回っていたバッ君の足が止まった。
だが、足を止めたのは何かを見つけたからとかではなく、打つ手なしで完全に行き詰まったからのようだ。諦めたような表情で天井を仰ぎ、肩の力を抜いて壁に寄り掛かっている。
ここはバッ君にばかり頼ってないで、自分でも脱出方法を考えようとは思うのだがいい考えが全く浮かばない。それに、いつの間にか幽霊のように消え去ってしまった少女の行方。まさか本当に幽霊だったとは思いたくないが、そうでないならどうやってこの場から消えたというのか。つい怖い想像が頭の中でちらついてしまい、全然思考が進まない。
すると突然、「カツン、カツン」と誰かが歩いてくる音が聞こえた。しかも隠し扉の方からではなく、鉄格子の外からだ。
誰かが助けに来たのかもしれないという期待と、恐ろしい化け物がやってくるのではないかという恐怖が心の中で犇めき合う。
バッ君も緊張した面持ちで鉄格子の外へ視線を向けている。
時間が経つにつれてどんどんと近づいていく足音に比例して、心臓の鼓動もどんどんと高まっていく。そして、ついに足音の主が正体を現し――
「おや、悪魔を探して探検していたのにオロバスと出会うとは。相変わらず奇妙な縁で結ばれているな、私達は」
「それよりもここは……もしかして祭壇ではないでしょうか? ××君とサタン君は今まさに悪魔を呼び出すための生贄として使われているのでは」
「それは半分正解で半分不正解だと言えるな。既に悪魔は呼び出されているから、我が僕たちが現在進行形で生贄になっているわけではない。だが、この部屋が悪魔を呼び出すための祭壇であることは間違いないだろう」
「ふむ。魔術の伝道師たるクレア先生が言うならばその通りなのでしょう。しかし、ともするとこの状況はチャンスなのでは? 都合よく二人も生け贄がいるわけですし、強力な悪魔を呼び出せるチャンスかと」
「ふざけてないで早く助けてくれ。もしここで俺を助けなかったら、妹がお前らに何をするか分からないぞ」
楽しそうに悪魔召喚について話していた二人が、バッ君の一言で凍り付いたかのように動きを止めた。そして、服の中から(?)一本の針金を取り出すと、鉄格子についている鍵の解錠に取り掛かった。数分と待つこともなく、カシャリと音がして鉄格子の扉が開く。
バッ君は救出された直後になぜかお姉さんにキックをかまし、「これで許す」と告げていった。さすがに僕はそんなことはしない、というか助けてもらったわけなので、素直にお礼を言うことに。
「えっと……バッ君のお姉さん、助けていただいて有難うございました」




