疲れたときは成り行きに身を任せるのも一興
予想はしていた。これは決して言いわけではない。本当に予想はしていたのだ。
見るからに怪しい雰囲気で、受け答えも怪しく、自分の家のように迷うことなく旅館内を歩き、剰えは隠し扉の存在も知っていた女の子。これを疑うなという方が無理な話だと思うし、ついていったら何かしら面倒な事態に陥るだろうことは、予想がついていた。
にも関わらずこの状況。鉄格子の嵌められた部屋の中に閉じ込められるなんて。自分で自分を呪いたくなる。
とはいえどうやって防げばよかったというのか。銀髪の少女を放置して、何か起こるまでじっと動かずに部屋で待つべきだったとでも?
いや、あり得ない。
あんなやばい少女が旅館にいた時点で、動こうが動くまいが結果はそこまで変わらなかったはず。だからその点において後悔はない。反省点を上げるなら、隠し扉を通るのにS君まで巻き込む必要性はなかったというところだ。S君には隠し扉の前で待機してもらって置き、俺一人だけで少女の後を追えばよかった。ある程度経っても俺が戻ってこないようなら、(大変不本意ではあるが)姉や書記に助けを求めてもらい、何らかの救出措置を取ってもらう。そうしていれば、今ここで為す術もなく途方に暮れることはなかっただろう。
それに、なんやかんや異常事態に慣れてしまった俺と違い、Sはこうした状況に対して耐性がない。今も呆然とした様子で、この状況に対する理解が全く追いついていないように見える。できるだけ早くここから脱出させて、落ち着ける場所に移動させてあげたい。
となるとどうやって脱出するかだが、鍵となるのは消えた銀髪少女だ。彼女も先に隠し扉を通ってこの部屋にやってきたはずなのに、今はどこにもその姿が見えない。どうにかしてここから脱出したらしいが、ぱっと思い浮かぶ脱出方法は最悪の物。
おそらく俺たちが隠し扉を使って中に入った時に、入れ替わるようにして彼女は外に出たのだろう。もし鉄格子を開ける鍵を持っていたのなら、今鉄格子の外に彼女の姿が無いのはおかしい。俺たちが本当に牢屋の中に入ったのかどうかも確認せずにどこかに行ったことになるのだから。
しかしそうすると完全お手上げだ。ここの隠し扉は牢屋側からは動かせないようになっているみたいだし、道中誰ともすれ違わなかったから誰かがこの隠し扉を見つけてくれるということもなさそうだ。まあ仮に、隠し扉を見つけてもらえたとしても被害者が一人増えるだけで根本的な解決には至らないだろうが。
Sもようやく今の状況に思い至ったのか、顔を真っ青にして落ち着きなく部屋の中を見回している。何か安心させる言葉をかけてあげたいが、パニックっているのはこちらも同じ。かける言葉は思い浮かばない。
もう、あえてここは何もせず、俺の狂運が何かを引き寄せて来るのが一番な気がしてきた。今までの傾向から、ここで何も起こらずに餓死するなんて事態にはならず、もっと厄介かつ面倒な出来事が襲ってくるだろうから。




