自分のことでなくてもドキドキはする
突然アリバイなんかを聞きに来た不躾な男たちが去っていくと、僕はほっと息を吐いた。
特に僕が疑われている、というわけではなかったのだが、如何せんバッ君の対応が雑過ぎた。終始笑顔でこそいるものの、相手への問いかけに対しては全く考えた素振りもなく一瞬で回答。最後には相手が質問する前にどうせ聞かれるだろうことを自分から答える、などと言う嫌味っぷり。バッ君が答えれば答えるほどに、後ろで見守っていた男たちの顔が険しくなっていたため、途中からは僕の方がドキドキするはめになった。
しかし、当のバッ君はすでに悟りの境地に達しているらしく、男達が出て行った後も仏顔(?)で宙を見つめている。このままそっとしておくのがいいのか、それとも何か声をかけたほうがいいのか。どうしていいか分からず悩んでいると、再びノックもなしに扉が開き人が入ってきた。
「邪魔をするぞ。今からこの地で目を覚まされた悪魔に対抗するため、我も強力な使い魔を召喚したいと思う。そのためにプルソンの血が必要だ。いつものことで悪いが、血を採らせてもらうぞ」
「ということなので××君、失礼します」
入ってきたのはバッ君の天敵二人組。
先ほどの会話を思い出し、僕は少し体を震わせて彼女たちを迎え入れる。本気で信じたというわけではないが、黒ローブの女性が予言したとおりのことが起こったばかりなのだ。また何か不吉なことを言われ、それが実現してしまったらと思うとうかつに近寄りたくはなかった。
そうして彼女から逃げるように少し下がった僕だったが、今のバッ君は完全に仏状態。この闖入者二人に対しても動じることなく、穏やかな笑みを向け返した。
「どうぞどうぞ。今更何も抵抗したりは――って、何しやがる姉貴!」
姉貴! 黒ローブの変人ってバッ君のお姉さんなの!?
「何とはなんだ。服をはいでいるだけだろう。今回必要となる血は少し特殊なものでな、取り敢えずプルソンには全裸になってもらおうとしているだけだ」
「ふざけんな! というか俺の名前はそんな名前じゃねぇよ! というかトマトまで何してんだ!」
「××君が暴れるので体を押さえつけようとしているだけですが、何か?」
「何かじゃないだろ! ああもう、さっさとこの部屋から出いきやがれ!」
さっきまでの仏顔はどこへやら。バッ君は鬼の形相で二人を跳ね除けると、強引に足で蹴飛ばしながら部屋の外へとたたき出した。
あまりのバッ君のバイオレンスぶりに、見ていた僕としてはハラハラドキドキしっぱなしで……。