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とりあえず事なかれ主義2  作者: 天草一樹


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変人とは

 常々思っていることなのだが、変人と一般人の違いとは何だろうか?

 俺が考えるに、自分にとって理解できないことをする人が変人であり、そうでない人が一般人だと思っている。だがこれは、ひどく主観的で偏った考え方な気もする。俺の姉は知っての通り黒魔術に傾向する、まあどんな人が見てもまず理解なんてできない変人で間違いないと思う。しかし、俺の理論からすると、姉にとっては黒魔術を信じない全ての人間が変人に見えているということになってしまう。

 とはいえ姉は間違いなく一般とは言えないタイプだからそこまで気にする必要はないだろうが、もっと些細な差から生じる問題に対してはどう考えるべきか。

 例えば、ホラー。ホラー小説やホラー映画、お化け屋敷の存在から分かるように、怖いもの好きというのはそれなりの数いるらしい。しかし、ホラーが苦手な人からしたら幽霊や悪魔が出るような話をどうして面白おかしく見ていられるのか、全く理解できないだろう。では、ホラーの苦手な人からしてみたら、ホラー好きというのは等しく変人に見えてしまうものだろうか?

 他にも人によって大きく見方が違うものとしては、虫や本、食べ物などがぱっと思いつく。虫嫌いな人からしたら虫を嬉々として採集するような人は理解できないだろうし、本を全く読まない人からしたら自由な時間に他人と喋ったりせず本を読んでいる人を理解なんてできないだろう。食の好みなんて千差万別で、同じものを食べたとしてもそれに対する感想は一人一人全く違うだろう。

 さて、今述べてきたような理解できない点を持つ人のことを、誰もが変人だと考えているだろうか――答えは当然「否」だ。確かにそれら一つ一つは理解できなくとも、だからと言って相手のことを変人だと考えたりはしない。何せその程度の理解できない点の一つや二つ、誰だって持ち合わせているし、ただの個性として片づけることができるからだ。

 しかしそうなると困ったことになる。理解できないことをする人が変人であるという考えが否定された以上、何をもって変人を変人と呼べばいいのか?

 分からない。分からないが――

「今日この瞬間から助けが来るまで、ここは陸の孤島。まず間違いなく殺人事件が起こるでしょう。これほど小説の題材として相応しい状況はありませんわ。田中、全ての宿泊客及び従業員の行動を正確に把握し、余すことなくメモしておきなさい」

「承知しました、キクノお嬢様」

「それから、私達が橋を破壊したことは絶対にばれないようにしなさい。せっかくの素敵な舞台で、動きを制限されたら困るもの」

「ご安心ください。決してばれることは無いよう、抜かりなく実行しましたゆえ」

 どうして密談をこんなに堂々と行っているのか?

 やはり理解できない。理解できないし、彼らも十分変人だと思うのだが、同時ににもう一つ疑問が。

 変人と狂人の違いは一体なんだろうか?

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