刺激は必要
平凡な日常って何ですかね? 平凡じゃない日常を送っている人に、平凡じゃないという意識はある物でしょうか?
平凡な人生が一番。たまにそんなことを言う人がいる。
別にその考えが間違っているとは思わない。僕だって基本的には平凡な日々を送れることを望んでいる。
でも、ずっと平凡な日々の中で生きていると、どうしたって刺激が欲しくなるものだ。刺激というのは、別に戦争に参加したいとか犯罪を犯したいとか、そんな過激なことでは当然ない。人によっては異世界に行ってみたいとか、宇宙人と遭遇してみたいとか、そういった刺激を望んでいる人はいるかもしれないが、僕はそんな非現実的な刺激も欲してない。
もっと細やかな、本当にちょっとした刺激でいい。
例えば、朝学校に行く途中に黒猫と目があったり。例えば、普段全く喋らないような女の子と二人っきりで会話したり。例えば、傘を差さずに雨の中を走ったり。
そんな、人によっては刺激とも取れないような刺激。でも、普段とは違うちょっと非日常な時間。
こうして言葉に出してみると、やっぱり平凡の範疇からは外れていない気がする。でも、自分にとっては退屈な「いつもの風景」を壊してくれるものとしては、やはり非凡な出来事だと思う。
そして今、「退屈な日々」を壊してくれる最大級のスパイスを僕は手に入れた。
それは、クラスメイトとの同居生活。
最大級なんて言ったけど、人によっては大したことないと思うかもしれない。ルームシェアなんて大人になれば普通にあることだし、結婚したり彼女ができたりすれば同居なんて当然のことだろう。
でも、高校生というまだ自立できていない時期に、親のいない中でクラスメイトと同居生活。少なくとも僕のような平凡な日々を送ってきた人間にとっては、人生で一番といってもいいくらい刺激的なイベントだ。
少し残念なのは、一緒に暮らすことになるクラスメイトが女子じゃないことだろうが、それは気にするほどでもない些細なこと。気を使う必要が少なくて済むという意味では、女子じゃなくて有難いぐらい。
それにそいつは、僕が出会ってきた中でも三指に入るほどミステリアスなやつ。
性格は温厚で、どちらかというと無口。喋りかければ笑顔で対応してくれるけど、喋りかけてくることは滅多にない。一見、僕以上に地味で平凡にさえ見える。
――でも、そいつにはたくさんの噂がある。
うちの学校で最も有名な生徒会長様と付き合いがある、とか。中学生の女子にストーカーされている、とか。変人で有名だった自称霊能力者の生徒を退学に追い込んだ、とか。悪魔に憑りつかれている、とか。
そいつの周りには、そんな嘘や冗談としか思えないような不思議な噂が立ち込めている。
だから、僕はいまだかつてないほどワクワクしていた。そいつとの共同生活が、「いつもの風景」をどんな風に塗り替えてくれるのかに。