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想いの価値は  作者: スミス・ヴァルター
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第5話

2017.6.14 文章修正致しました。

 学校裏サイトの話を和美が聞いてから一週間後、早くも事態が沈静化しはじめているとの報せを和美は聞いた。

「正直、今いる先生たちも先輩たちも皆姉貴のこと知ってるから、俺にも良くしてくれるんだよね。むしろ、途中から掲示板の流れが書き込みをした奴の特定に向かっちゃって、疑われてた人の何人かは体調崩しちゃってるんだ」

 今日は土曜日。創平の提案で久しぶりに二人で外出をしていた。行き先は和美の希望でサンシャイン水族館に決まり、目的地を目指して駅構内を歩いているところだった。

「良かった。だったら、今は無事に過ごせてるんだ?」

 和美は内心胸を撫で下ろした。話を聞きながら、今日の服装におかしなところは無いかを絶えず気にしていた。黒いロングのスリットスカートに、白いブラウス。誕生日に創平からもらったSAZABYサザビーの紺色のバッグとDianaダイアナの茶色のパンプス。問題ない。

「うん、姉貴のおかげだよ。学校中姉貴の味方だから、その身内の俺に手を出してまで何かしようっていう動きが無いんだから。本当にありがとう」

 笑顔で創平に応えつつ、和美は昨日の午前中に職場に送られてきたFAXを思い出していた。和美の顔写真を切り刻んだものや、誹謗中傷の文面が大量に送られてきたのだ。

 かつてのストーカー事件を思い出す出来事に、職場は一時慌しくなった。上司は心配し早退を勧め、和美は昨日はいつもよりも三時間程早く帰宅していた。

 ーーーつまりは、FAXの目的は一からの報復というわけか。

 また、別の意図の可能性についても和美は考えていた。創平の恋人の蒼空と義理の姉の和美。2人の女の板挟みにすることで、創平を二正面作戦のような状況に引きり込む。そうすれば、創平の負担は単純計算倍となり消耗が期待できる。

 あるいは、陽動である可能性。一が和美に仕掛けたことで、創平の注意が和美に逸れたとする。その場合、間隙を突いて何らかの行動を蒼空にしかけてくる公算が高い。

 もしくは、これは一時的な攻撃ではなく継続性的なものであり、行動の主目標は和美を忙殺すること。つまり、創平の後方支援を断つことこそが目的である可能性。

 次に和美は対抗策に意識を巡らせた。最初の二つに関しては、和美が創平にFAXの件を話さなければ良い。知らなければ無いのと同じであり、何も起こらない。では三つ目はどう対処するか。

 仕事を休む。いや、継続的に嫌がらせが続くのであればいっそのこと辞めてしまおうかとも思う。あくまでも和美の職場は役場なのだ。いくら周りが心配してくれるとはいえ、それで行政が止まって良いわけがないと和美は考えていた。この身の処し方であれば、創平を支えつつ、職場への影響も最小限で済む。と、和美が結論付けた時だった。

「うわっ!」

 和美は自分でも驚くほど素っ頓狂な声をあげた。創平が和美の頬をつねったからだと気がつくのに二秒程かかった。

「姉貴。今ずっと考え事してたでしょ。俺さ、今日は言いたいことがあるんだ」

 歩みを止めて立ち止まる。階段を登り終え、池袋駅東口に着いていた。人通りが多いその場所で創平に両肩を握られ、和美は向き合う形をとらされた。

「俺は、俺の半分は姉貴のものだって思ってる。それくらい姉貴は俺にとって大切な人なんだ」

 創平は熱を持った目で和美を見る。和美が見たことがない目だった。

「なのに、俺は今まであまりにも姉貴に頼りっぱなしだった」

「そんなことない、前に」

 和美はストーカーから助けてもらった時の話をしようとしたが、続かなかった。

「昔の話じゃない!」

 和美の言葉を遮って、創平は強く言った。

「俺の人生は、色んなところに姉貴の残り香があって、正直中学も高校もそんなに苦労しなかった。先生も先輩も皆俺のこと姉貴の弟っていうだけで優しくしてくれるし、姉貴の色んな話を聞かせてくれる。その度に、俺は姉貴は凄いなぁって思うんだ。その他にも皆口を揃えて、姉貴は弟の俺のことを本当に大事にしてるって。幸せ者だって教えてくれるんだ。なのに、俺何にも姉貴の力になれなくて、少しでも自立しようと、頑張って色々試しても思うようにいかなくて、おまけに最近は姉貴元気無くて……俺自分が情けなくて…………」

 今度は創平の言葉が続かなかった。和美が創平の両頬に手を添えたからだ。

「なにも気に病まないで。今から言うことは初めて話すけど、私は創くんと出会って無かったらこの世にいなかったかもしれないんだよ」

「え?」と、涙声になっていた創平が聞き返す。

「私は、創くんと出会うまで自分の価値なんて何にも無いんだって思ってたんだ。だけど、あの日、初めて創くんが私の手料理を食べてくれた時に生まれ変わったの。創くんが、私に生きる動機をくれた。私の全ては創くんのためにあろうって胸に誓ったの。だから、悲嘆しないで。私はこんなに感謝しているんだから」

 清流のように言葉が和美の心から溢れてきた。

「はははっ」和美の口から思わず笑いが漏れる。

「やっと言えた。今までずっと、言いたかったのに言えなかった言葉。まさか今日言うことになるだなんて」

 嬉しさに、目が潤んでいるのが自分でも分かった。背伸びをして創平の首に手を伸ばし、抱きついた。行き交う人々の視線を時折感じるが気にしない。三秒ほどの間があってから創平の重みを両肩に感じた。踵が地面に着く。創平の手の感触を背中に感じた時、和美は自分が抱きしめられているのだと分かった。

「姉貴、ありがとう」

 創平は和美の耳元で呟くと、深く息を吐き出した。和美は創平の頭を優しく撫でた。

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