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願いは貴方に

 私には貴方だけだった。


 その世界が崩壊へと着実に進んでいることに私は気づいていたのに、止められなかった。


 否、本当は止めなかっただけなのかもしれなかった。


 私が望むのは皆が笑っていられるような優しい世界。


 貴方は必死になってくれて、叶えようと頑張ってくれていた。


 その想いは嬉しかったけれど、無理はして欲しくなかった。


 だって、私だって知っているのよ?


 この世にそんな甘い世界など存在しないと、決して人は争いをやめられないと。


 だから、人は余計に夢を見る。


 それが叶わぬ夢なら、尚更だった。


 『誰もが笑っていられる世界?』


 私の理想を話せば、人は皆同じくして『在りはしない』と嘲笑う。


 夢を見ることもできないほどに落ちぶれた人々が、振り返ってはくすくすと笑う。


 なのに、貴方は違っていた。


 『そんな優しい世界が欲しいなら自分たちの手で作ればいい』と、さも当たり前に言われて。


 どうして、今まで気づけなかったのかと、かえって不思議に思ってしまうくらいだった。


 貴方も私と同じだと気づいたのはいつだろう…。


 そんな甘い世界など在りはしないと判っていながらも、夢を見て笑っている。


 そんな貴方がいつの間にか大切になっていた。


 だけれど、貴方は私と距離を置きだす。


 私を、護りたいと言ってくれた人はそれが理由で離れていく。


 行かないでと、伸ばした手は掠りもせずに空回るだけ。


 このままどこか遠くへ行ってしまうような気がして、不安だった。


 多分私も貴方を守りたくて…だけれど、その術を知り得なくて道を見失っていたのだろう。


 貴方がいない世界に、私は生きている意味を見出せないの。


 貴方がいなくなってしまうくらいならば、私は優しい世界なんて要らない。


 そんなのは私の望んだ優しい世界なんかじゃない。


 貴方がいてこその世界に、私はいたいの。


 貴方と出会って私は変わったの。


 それからの私の世界は、貴方中心に動き出した。


 貴方がくれる笑顔が一番私をほっとさせてくれる。


 その傍にずっと在りたいと思う。


 だから、気づけなかったの。


 貴方が私を誰よりも大切に想っていてくれている事に、気づけなかったの。


 自分の命を軽視して、貴方の邪魔をした。


 貴方の光を一度奪ってしまった。


 貴方は己の生い立ちに苦しんでいて、それでも人の灯火を消していく。


 幼少に傷ついた心を隠しすぎて、貴方は感情の一部を欠落させてしまうほどに、苦しんでいたのに。


 どうして、私は気づいてあげられなかったんだろう。


 一番近くに居たはずなのに気づいてあげられなかった。


 本当はもっと早く気づきたかったけれど、もう私には時間がないから。


 貴方が今まで生きてこられた理由の光を奪ってしまったのなら、私がまた新しい光をあげるわ。


 本当の…本当は貴方のその傍でずっと支えて上げられたら良かったのだけれど。


 最後の最期に運命に、世界に裏切られたから、もう私は必要ないのね。


 大丈夫よ。


 貴方はこの私の居なくなった世界の中であっても、生きていける。


 貴方が淋しくないように私が傍で笑っていてあげる。


 貴方とはもう言葉を交わすことも出来なくなってしまったけれど。


 ねぇ、私は貴方にどうか笑ってと言ったけれど、貴方は私のために泣いてくれますか?


 それは貴方に伝えてはいない胸のうちの想いだけれど、貴方はすぐに叶えてくれそうね。


 また、いつか優しい世界で私が愛した貴方のままで、出会いたい。


 だから、そのときまでバイバイ。


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