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ACT4.初デートはアクシデント

 4月28日。

 突然理成おさなりくんから今度の土曜に一緒に映画に行かないかと誘われた。

 普通の乙女ゲーって好感度が相当上がってないと、デートなんて誘ってこないと思うんだけど。

「え?」

 私は思わず聞き返してしまう。

「‥‥ダメかな?」

 理成くんは優しくそう聞いた。断る理由なんて何もない。

「いいよ‥‥」

 私は答える。

「良かった。じゃあ次の土曜10時に駅前の時計台で」

 彼は嬉しそうな笑顔を向けた。


「というわけで、初めてのデートに行くことになりました」

 私は波留はるくんに報告する。

「おめでとうございます」

 波留くんはそう言った。

「理成さんはどうですか?」

 更に彼は質問する。それから、いつもの定位置の椅子から降りて私の前に座った。

 今日は真紅の髪をピンで留めていて、いつもより更に可愛らしい。服装はストライプのシャツに色落ちしたダメージジーンズというスタイルだった。

「どうとは?」

 質問の意味が分からない。

「理成さんは、タイプですか?」

 正直タイプなんて考えたこともなかった。

「‥‥分かりません。でも話をしていて、裏表のない真っ直ぐな人だなって思いました。勿論見た目も格好いいですし」

「そうですか。良かった!!」

 なんで波留くんが良かったと思うのか分からないけど、にこにこ嬉しそうにしている。サポート役の責任感だろうか。

「ところで、デートってどんな格好をしていったらいいんでしょうか?」

 私は聞いてみる。

「理成さんは、可愛い恰好が好きみたいですね。あと、オレンジが好きな色なので、洋服か小物に取り入れてみてはどうでしょう?攻略対象によって好みは様々ですから、本人に聞き辛かったら、遠慮せずにいつでも僕に聞いてください。自分から誘いたいときは、攻略対象の連絡先も教えますよ」

「‥‥なるほど。波留くんはなんでも知っているんですね。ありがとうございます」

 私は部屋に戻り、クローゼットの中を改めて確認する。たくさんの服が入っていた。可愛い恰好ってやっぱりパンツよりスカートかな。鏡の前で色々合わせてみる。ただ、薄ピンクの髪はいつまで経っても慣れないし、色味のある服装は合わせ辛かった。


 4月30日。

 デート当日。白がメインの小花柄ワンピースにオフホワイトのカーディガン。オレンジ色のショルダーバッグというなかなか乙女チックな服装で私は待ち合わせ場所に向かった。


 理成くんは時間前に来ていたようで、時計台の下に立っていた。モブだらけの中でとても目立つ。私を見つけて、すぐに駆け寄ってきた。

「おはよ。今日の服装、すっごく可愛いね。服装っていうか‥‥晶乃あきのが可愛いんだけど」

 理成くんは、開口一番そう言った。よくそんな恥ずかしいことさらっと言える。自然と顔が赤くなる。

 理成くんは、無地の水色のシャツにグレーのベスト、黒っぽいチェック柄のパンツ。何を着ていても格好いい。

「じゃ、行こっか。映画、観たいのある?」

「‥‥ううん。遊くんの観たいのでいいよ。今、どんなのやってるのかな?」

 言った瞬間、凍り付いた。

 すぐ前から聞きたくないおぞましい音がしたのだ。電車の停まるブレーキ音が。ホームに電車が停まるのが見える。

 頭が真っ白になった。

 勝手に体が震えだす。

「晶乃?」

 理成くんは驚いた顔で私を見る。私は目を見開き、ホームの正面から動けない。

「晶乃‥‥そうか」

 理成くんがゆっくりと私の肩を抱き、ホームに停車している電車が見えないように促す。

「ごめん‥‥。配慮が足りなかったね。もう平気だよ」

 彼は言った。

「‥‥消したから」

 更に続けてそう言った。理成くんは表情のない冷たい顔をしていた。

「消した?」

 私は震えながら、意味も分からずただ反復する。

「こっち見ても、大丈夫」

 彼の言葉で、私は徐にホームに向き直る。けれど、ホームはなかった。電車も当然消えている。

「ホームが無い‥‥」

「うん、問題ない。ごめんね‥‥怖いこと思い出させて」

 驚きと混乱で言葉を返せない。

「晶乃、今日は帰ろう。映画はいつでも観れるから」

 理成くんは優しい顔に戻って、私を見つめる。体の震えはなかなか治まらず、彼は家に着くまでずっと手を繋いでいてくれた。


 家に戻って、自室のベッド上で大きく息を吐いた。

帰り、理成くんと何を会話したのか、もしくは何も話さなかったのか、全く覚えていない。ただ、繋いだ手の温かい感触だけが今でもずっと残っている。


 暫く経って二度のノック音。

 波留くんだった。波留くんが自室から動くなんて初めてのことだ。

「‥‥大丈夫ですか?今日は、嫌な思いをさせてしまって、本当にすみません」

 彼は真剣な顔でそう言った。

「なんで波留くんが謝るんですか?全然大丈夫です。理成くんが‥‥助けてくれたので」

 私は明るく返す。

「理成くんは、魔法使いみたいでした。‥‥それにしても、電車のない世界でいいんでしょうか?」

 上手く笑えて話せているだろうか。

「それは問題ないです」

「理成くんと同じこと言うんですね」

「アクシデントばっかりで‥‥こんなこと初めてです。記憶、少し操作すべきでしたね‥‥」

 波留くんは考え込んで、独り言のように呟いた。しばらく重い沈黙が流れる。

「ゆっくり休んでください。明日からは、いつも通りです」

 その時の私には、報告なしで波留くんが全ての状況を把握していることは勿論、なぜ理成くんが電車の事故のことを知っていたのか考える余裕もなかった。

 寧ろ何も考えたくなかった。波留くんの言葉に頷いて、そのまま朝まで眠った。

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