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月明かりに照らされて  作者: セルリアンブルー
第一章
2/6

生存確認

 大和遥香。

 日本生まれの日本育ち。

 彼女は現在、交換留学生としてイギリスに滞在している。

 家庭はいたって普通であり、両親も普通のサラリーマンと専業主婦である。

 両親は彼女が海外へ行くことへの不安や寂しさ等があったのだが、快く送り出してくれた。「しっかり勉強してきなさい」「気を付けてね」と、そう言って送りだしてくれた。

 遥香もがんばろうと決心した。

 その甲斐あってか、なかなか上手くいった。

 友達もでき、成績も上々だ。

 そんな時にセミロングの金髪の少女、アサギ=グロリアに出会った。

 おっとりとした性格で、趣味は食べること。食事を共に何度かするうちに、友達になった。

 アサギはとても聞き上手であったので、会話が弾み、何時間も話すことができた。

 ある日遥香とアサギは二人でカフェでお茶を飲んでいた。

 「ここのケーキ、すっごくおいしいのよぉ」

 そう言いながらアサギは満面の笑みを浮かべて、ケーキを口に運ぶ。おいしいわぁ、などと言っている彼女をチラリと見る。近くには皿が山のように積み重ねられていた。

 彼女はいつもこんな感じだ。最初はかなり驚いたものだ。しかし、あんなに食べているのにスリムな体型を維持している。納得いかない。

 「いいなぁ、なんでそんなに食べても大丈夫なんですか?アサギさん」

 「体質よぉ」

 「いいなぁ…」

 いつものように会話を続ける。楽しい時間は風のように過ぎて、あっという間に暗くなってしまう。

 「ヤバ…もうこんな時間…帰らないと」

 あら、そうなのぉ?というアサギにゴメン!と両手をパン!とあわせる。

 早く寮に帰らないと。

 じゃあね、とアサギに手を振り、カフェを出る。

 今は夏の終わり。日中はまだまだ暑いが、夜になると肌寒い。

 大きく伸びを一つ。もう少し話したかったなぁ。名残惜しくカフェを見てから、寮に向かって歩き始める。

 少し行った後、チラッと時計を見た。間に合わない。近道するか。

 ここからショートカットする道は真っ暗な路地を通るので、怖い上に危ないが、寮長に怒られるのはごめんだ。

 暗い路地を見てから、思い切って入った。そのまま数メートル進む。

 「ねえ」

 「!!…って、なんだ、アサギさんかぁ。どうしたの?」

 ハァ、ハア…。

 なぜか息が荒い。カフェからこの路地まではそんなに離れていない。ここまで息が荒いのはどういうことなのか。

 「ど、どうしたの…?」

 私がおそるおそる聞くと、かすれた声で言った。

 「逃げて…!」

 えっ、と思う間に。

 彼女はおぞましい姿へと変わっていった。

 黒い炎に包まれたかと思うと、灰色の体毛に覆われた腕が。足が。最後に頭部が。暗闇に恐ろしく映える。オオカミのようになった頭部で睨みつけられる。

 「……!!!」

 ヤバイ。ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ──!!!

 一刻も早く逃げなければ。地面を思い切り蹴り、走りだした。





 ◆ ◆ ◆



 

 ……………?ここは…?

 寝ている状態のまま、大和遥香はぼんやりとした目で天井を見た。

 (たしか…)

 友達と話していて…。寮に帰るのが遅くなってしまって…。少し行ったところで友達が追いかけて来て…。化け物に変わって────。

 「─────!!!」

 思い出した。完璧に思い出した。

 雷に撃たれたかのような衝撃とともに、咄嗟に身を起こす。

 「ああ、目を覚ましたのか。気分は…最悪だよなぁ、もちろん。」

 すぐ隣から声が聞こえ、目を向けた。そこには、一人の女性が座っていた。

 赤髪のショートヘアーをオールバックにし、額には肉食獣を思わせる赤いバンダナをつけている。

 ラフに男物のシャツを着、黒いジーンズを履いている。ボーイッシュな印象を抱かせた。

 彼女は、紅い目を向けて私に言った。

 「大変な目に遭ったみたいだね。どこか痛い所とかない?」

 そりゃあもちろん、あんなにあの化け物に噛まれたりひっかかれたりしたのだ。あるに決まって──

 「痛くない!?」

 全く痛くもなんともない。むしろ、前よりも調子がいいくらいだった。

 着させられていたダボッとしたTシャツの襟を掴んでそこから体を見る。下着は全く付けていないが、それよりも一つの傷も、擦り傷すらない自分の体に絶句する。

 絶句している私を見て、彼女は苦笑した。

 「やっぱり、『血』が混じっちゃったみたいだね…。どう?気分は悪くない?」

 首を振る。そこで初めて今まで裸眼だったことに気がついた。呆然としながら、手を目の位置まで持っていって動かす。

 私を観察していた青い髪の女性は、ふと扉の方を見て言う。

 「ああ、入っていいよ。」

 すぐに返事が聞こえた。

 「姉さん、タオルの替えを…。あっ、目、覚めた?大丈夫?」

 小柄。第一印象はそんな感じだった。黒い長髪に紅い目、大きめな黄色いパーカーに茶色いダボッとしたズボンを履いた少女。

 これが、いずれ運命を共にする少年、コバルト=グロリアとの最初の出会いだった。

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