紅い月
初投稿です。多々至らない点もあると思いますが、それでも見てくださるなら幸いです。
月。
地球の衛星として知られ、人類が初めて到達した天体としても有名である。
いくつかの神話では女性の象徴とされている。
月は優しい光で眠る人々を包み込んできた。
だが今宵の月はそれとは大きくかけ離れたものだった。
紅く、そして禍々しく地上を照らす。
「下等生物を殲滅する絶好の機会ですね…姉様ぁ…。」
うっとりと呟く女性も例外ではなかった。
黒曜石のような艶やかな髪。闇を凝縮したような色合いのセーラー服。雪のような白い肌。黒と白を組み合わせた、少女から女性へと変化する絶妙な美しさの瞬間を切り取った芸術品のような姿の中で、唯一瞳だけが今宵の月と呼応するように紅く輝いていた。
彼女は月から目を離すと、自分が立っている大きな杉の木の頂上から町へと目を向ける。
さらに息を切らして走って来た少女へと視線を移した。
黒に限りなく近い焦げ茶のショートヘアーを揺らし、額に光る珠のような汗を手の甲で拭いながら、少女は必死に走る。ずり落ちる黒ぶち眼鏡を元の位置に直し、振りかえる。その瞳に恐怖の色が増した。
遂に少女は力尽きた。街灯の光の下で、追跡者へと視線を向けながら、懸命に傷めた足を引きずり、1センチ、1ミリでも離れようと努力を続けた。
しかし、その努力は報われなかった。じわり、じわりと追跡者はそのおぞましい姿を街灯の光の下へ姿を現す。漆黒の毛皮で身を包み、人間でいう耳付近まで裂けたような口。目はまるで今から始まる事が愉しみでたまらない、と言うようにギラギラと深紅に輝いている。頭の上にある尖った耳、黒く突き出した鼻をヒクヒクと動かすその姿は、まるで伝承にある怪物──人狼そのものであった。
即席の処刑所と化した街灯のスポットライトの下で、人狼は毛深く鋭い爪のある剛腕を振り下ろす。
鮮血が飛び散り、少女の悲鳴が響いた。獣の咆哮がそれに続く。その咆哮は、どこか物悲しく町中に轟いた。獣は自らの目と同じくらい赤い液体──血液をその目から撒き散らしながら、さらに追撃を加える。
その姿を見届けた黒いセーラー服の少女は、紅い瞳を獰猛に光らせ、哄笑した。