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久遠ノ月(4)


「ふわあ〜〜〜〜〜ぁう」


我ながら大きな欠伸だった。

それもまあ、仕方のない事だ。

暖かい春の日差しに照らされながら、私は大学のベンチに腰掛けていた。

なんだかんだで既に私、ツバキも二十一才。大学生活も佳境に入っているところである。

かつてカナタさんが通っていた大学に私は在学している。理由は・・・近いからだろうか。

まあはっきり言えば彼女の事を理解したいから、というのもあった。

数少ない彼女の友人として、私はもっと彼女を知らなくてはならないと思う。

桜は満開。気持ちのいい風が髪を梳いていく。

胸いっぱいに吸い込んだ優しい空気。


「ぷはあーっ」




先輩がいなくなってから、三度目の春がやってきた。





⇒久遠ノ月(4)






私は相変わらずあのぼろアパートに住んでいる。

住人は先輩が居なくなったので、佐々木さんだけだ。

大学から早めに帰宅すると佐々木さんが庭にブルーシートを敷いていた。

もう準備とはずいぶん気が早い気もするけれど、もうお昼過ぎ。そうでもないか。


「ただいまっ、佐々木さん!」


「おお、ツバキ君ではないかおかえり・・・・ああそうそう、そっちひっぱってくれないか」


「いいですよ〜」


二人でシートをひっぱってピンとしわなく伸ばした。

佐々木さんは相変わらず一張羅であるスーツを着こんでビシっと決めている。

毎日同じものを着ていると思いきや、どうやら同じデザインのものを複数所持しているらしい。

なんというかそこまでしなくてもいいのに、と思う。

今日は桜が満開なので庭先に咲いている桜の木でお花見ということになっていた。

佐々木さんの侮れないところはプロなみの料理の腕前。

自称探偵とかなんとかいっておきながら、何でも出来るのが実に侮れない。

そもそも働いているのかどうかよくわからない。最近はよく出かけているけど。

佐々木さんと一緒に部屋に入って料理を作る。

彼に学ぶようになってから料理の腕は格段にレベルアップした。

今ならまず間違いなく先輩もノックアウトできるはずだろう。

料理もそこそこに、わたしは自室に戻って着替え始めた。

オレンジ色にフリルがついたワンピース。髪の毛を動きやすいように止めて、再び厨房へ。

うさぎさんマークのエプロンはカナタさんの趣味だ。あの人はかわいいもの好きである。

二人で料理をしていると扉が開いてルミアさんが顔を出した。


「ちーす、うおお、いいにおいがする!!」


この人は実に道楽者だ。しばらくわたしの部屋に居候していたこともある。

自称探偵というわりにはしょっちゅう怪我して帰ってくるし物騒なもの持ってるし謎は多い。

なんにせよ悪い人ではない。ただちょっとつまみ食いが激しいので、


「だめです!!」


「おぶう!」


まあ、叩くことはあるけど。


ルミアさんには料理を運ぶのと食器を出すのを手伝ってもらった。

佐々木さんが作っただしまき卵をつまみ食いしていたけれど、まああれくらいなら許すとしよう。

下手するとまるまる一食分つまみ食いするのだから、これくらいかわいいものだ。

ルミアさんは実は国内にほとんどいない。

世界中を旅しているという彼女は各国からの要請で探偵業をしているらしい。

事実そうなのかどうかはわからないけれど、国内に居ないのは本当だった。

何せ電話をかけるとお金がかかるので。


これは後で知ったことだけれど、佐々木さんとルミアさんは結婚していたらしい。

聞いた瞬間はかなり驚いたけれど、今見ると確かに似たもの同士だ。

結婚とはいえ籍は入れていないらしく、しかも別居同然状態。

だというのに特に二人は何も不満はないらしく、いつも幸せそうに笑っている。

二人には二人なりの理由があるのだと思う。それに私は口出しできない。

三年前の件で色々考えさせられることになった。

私は私なりに色々な事を考えた。

罪の所在や罰の方法やその如何など。

けれど結局、私は彼らのことが大好きだから、そこに余計な問答など無意味だった。

たぶん、そう、きっと、そんなものだ。

私たちは都合のいい出来事だけ守りたい人だけしか守れない。

それは正義の味方には程遠い行いだけど、大事なものを守りたいと、大事な人たちを守りたいという気持ちには絶対に間違いも偽りもないと思うから。

だからそれはそれで、私は納得できる。

私はそれでも信じていける。


「ルミアさん、久しぶりなのにいきなりつまみぐいってどうなんですか」


「いや、悪い悪い・・・・かはは、しかしうめえなーおい」


「俺が作ったのだ、当然だろう」


「それもそうか」


何がそれもそうか、なのかわからないしだったら一緒に住めばいいのに。

この二人のことはよくわからない・・・・。

ちなみにこのアパートのもう一人の住人であったおじいさんは宝くじを引き当てて一億円を手にして現在世界一周旅行の最中だ。

うそみたいな話である。


「あれ?カナタさんは一緒じゃないんですか?」


「ああ、あいつはコンビニでジュース買ってから来るってよ」


「そっか・・・ちょっと私手伝いに行ってきますね」


サンダルを履いて歩き出した。

このあたりにコンビニというのは先輩がクビになったあそこしかない。

歩いて十分。コンビにの前にはぼんやりとそれを眺めているカナタさんの姿があった。

腰近くまで伸びた滑らかな黒髪。スカイブルーのワイシャツに、月を見立てたロゴの入ったネクタイを締めている。黒いミニスカートからは長い足が伸びていて、遠めに見てもとんでもない美人だった。

それがぼんやりとした目でずっと、何もないところを見つめている。


「かーなたさーん」


「・・・・・・・・・・・・・うん?」


寝ぼけたような声で振り返った。

彼女はそれから少しだけ驚いたように表情を変え、穏やかな笑顔で私の名前を呼ぶ。


「久しぶり、ツバキ」


カナタさんは2リットルのペットボトルを四本も五本も買っていた。

仕方ないので私たちは半分ずつそれを持って歩き始めた。

あの出来事以来、カナタさんはぼんやりしていることが多くなった。

というよりはとても落ち着いていて、大人な雰囲気をかもし出す女性になった。

そりゃまあ、そうなんだけど。何せ彼女ももう二十二歳だし。

身長はまだやっぱり低めで、私より一回り小さいけれど。

あれから彼女は彼女なりに考えて乗り越えてきたのだろうと思う。

一緒にアパートの庭に着くと、二人はもう勝手に酒瓶を空けていた。

こうして四人によるお花見が始まったのだった。


「いやあ、今年も無事春がやってきたようでよかったよかった」


「春がやってこないことなんてあるの?」


「さぁな、そりゃわかんねえぜ?いきなし一個飛んで夏が来るかもしれねえ」


「そんなわけないでしょもう・・・・ルミアさん食べながらしゃべらないでください」


わいわい騒ぎながら私たちは食事を楽しんだ。

盛り上がって踊りだす佐々木さんとルミアさん。

梅酒の入ったグラスを片手に、楽しそうにカナタさんはそれを見ていた。

変わったな、と思う。

そりゃ、変わるしかなかったんだろうけれど・・・・・・・・・。



先輩を失った彼女は、それからしばらくの間死んだようだった。

私は根気よく彼女のマンションに通って声を掛け続けた。

立ち直ったといえるまでに二年近くが必要だった。

私自身、悲しかったことも理由にあったのかもしれない。

先輩がいないという寂しさを、私たちは紛らわせたかった。

カナタさんと私は、いい友達になれたと思う。

たくさんの私が知らない罪を、彼女は教えてくれた。

その一つ一つが彼女の痛みで、先輩がくれた贖罪の時間。

彼女は毎日少しずつ自分自身と世界と向き合って、ちゃんと自分で歩き始めた。

今はルミアさんに従って、世界中を旅しているらしい。

つまり今は探偵の助手、ということだった。

今日の日のために二人はわざわざ帰国してきてくれたのだ。

まあ去年の花見は飛行機が遅れたとかで翌日来たりしたんだけど。

お互いお酒が飲める年齢になった私たちは遠慮なく飲んで食べて笑った。


「でも、本当によかったな・・・・カナタさんと友達になれて」


「・・・・それはわたしのセリフだよ。あなたがいなかったら、今のわたしはなかったかもしれない」


「・・・・・そんなことないよ。私に出来たことなんて、何も・・・・・」


「居てくれるだけで幸せな事もある・・・・きっとアキヤ君も同じ気持ちだったんじゃないかな」


そういって彼女は梅酒を口にした。

私たちは夜まで騒いだ。

酔っ払ったカナタさんが脱ぎ始めたりと色々とハプニングもあった。

結局みんな酔いつぶれて、わたしの部屋になだれ込むことになった。

もちろん佐々木さんは立ち入り禁止。


「俺は一応あいつの亭主なんだが」


そんなの関係ないだろ。





私は先輩との約束を守っている。

先輩は最後、あの時私に言った。

僕が居なくなったら、カナタと友達になってやってくれ、と。

今でも正直言えば彼の事が好きだ。誰にも言ってないけど。

だから胸は痛む。けれど、彼の望んだ事を出来ていることを誇りに思う。

彼女と一緒にいることで私自身きっと強くなっていけると信じているから。

これが、アキヤ先輩が望んだ、楽しい未来に近づけるんだと信じて。


「・・・・・・・・・ツバキ」


眠っていたと思ったカナタさんが目を開けてゆらゆらと歩いてくる。


「なんですかー?」


「・・・・んー・・・だいすき〜・・・・」


「ひゃあー!!!」


抱きつかれて押し倒された私。

彼女は酔うと甘えるクセがある。

カナタさんは私にしがみついたまま、眠ってしまった。

身動きもとれず仕方なく私は添乗を見つめていた。

視線を移して、徐々に窓へ。


「・・・・・・・・・・・・・・・先輩」


会いたいけれど、でも我慢します。

それが先輩が望んだことなら、納得できないけど、がんばってみます。

私は今でも幸せだと胸を張っていえるから。

あなたたちに出会えた事を後悔したりなんか絶対にしないから。

カナタさんは暖かくて、くすぐったいくらいに、甘いにおいがする。

私は彼女と抱き合いながら、しばらくの間眠りにつく事にした。


先輩。



私たちは大丈夫です。

だから、安心してください。


これからもきっと、ずっと・・・・・。










彼は問う。


「君は、人を殺したね」


わたしは答えない。


「君は、それに対して何を思う」


わたしは答えない。


「君は、何故人を殺す」


わたしは答えない。


「そうすることで何かが手に入るのか?」


わたしは答えない。


「アキヤ君が君の元にやってくるとでも?」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


あの日、三年前のあの日、彼をこの手で撃った夜。

暗い森の中、何度かその場所で顔を合わせた青年がやってきて言った。

わたしは何も答えられなかった。何故彼がそんな事まで知っているのかもわからない。

わからないからうずくまったまま、月の映った汚れた水面を眺めていた。

彼は隣に腰掛けて同じようにそれを見ている。


「結局、何にもならなかっただろう」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「何にもならないものさ・・・・人ってのはだな、簡単に壊れもしないし、治りもしない。モノではない以上、それは目にも見えず、その痛みも他人には理解出来ないものだ」


「・・・・・・・・・・・」


「けれど、痛いという事は・・・・今君が生きているということに他ならないのではないかね」


「わかったようなこと、言わないで・・・」


「わかるさ」


「わからない・・・・」


「わかる。なぜなら俺も、ここで人を殺したからだ」


彼の表情を伺う。

寂しそうに、何かを思い返すように、彼は語りだした。


「俺はかつて、親友を殺して・・・・・それから好きだった人とまともに付き合えなくなってね」


それは、わたしたちとよく似た話だった。

殺した親友と、間違ったゆえにうまく交われなくなった一組の男女のお話。

慈しむように、彼はその記憶を口にする。


「だから気持ちはわかる。わかるから・・・・君たちには、間違ってほしくなかったんだ」


「・・・・・・・」


「人殺しである俺に君たちを責める権利などない。ただもしも、誰か・・・まだ取り返しがつく可能性があるのなら、まだ交わっていけるのなら、俺はそういった人々を救いたい・・・・それが人殺しなりに考えて選んだ方法だったのさ」


「・・・・・・・・・自分で考えて、選べってこと?」


「それに君は一人ではない。俺も・・・・ルミアも・・・・ツバキ君も居る」


「・・・・・・・・・・・」


「俺たちは相変わらず、交われないで居るよ。あいつのことは好きなんだが、うまくそういえなくてね。そんな関係でも性質でもなくなってしまったから、離れていてもお互いが存在している限りそれでいいと思う」


「・・・・・・・」


「でも君はまだ、交わっていける・・・・だから諦めたりしないでくれ。そんな悲しい事を言わないでくれ」


「・・・・・・・・・・」


「諦める必要なんかないんだ。また何度でも、傷ついても、誰かに手を差し伸べることを止めない」


彼はそう言って立ち上がると、わたしに手を差し伸べた。


「帰ろう、カナタ君。君はまだ、終わってなんかいないのだから」


後の事は任せろ、悪いようにはせん、という彼の言葉を信じてわたしは山を降りた。

何にせよ疲れすぎていて、眠い・・・・・・・・・。


それからはどうしようもない日々が続いた。

ツバキや青年・・・佐々木というらしい・・・や、ルミアさんが声をかけてくれたから、わたしはなんとか立ち直ることができた。

けれど冷静になって立ち直れば立ち直るほど、わたしは彼のことを思い出す。

会いたくなるし、謝りたくなるし、怒りたくなる。

人を殺すということはその存在を亡き者にするということだ。

もう謝ることすら出来ない。

もう、何も出来ない。

だから殺すことだけはしてはいけないんだ。

そうしてしまったら、もう交わっていく努力もすることが出来ないのだから。

終わってしまうということはそういうことだ。何もかも台無しにしてしまうことだ。

だから死んでもいけないし殺してもいけないんだ。

誰かと繋がりたいと望むのなら、殺してはいけない。


そう。


そんな当たり前のことだった。

わたしが勘違いしていたのは。



これからもたぶん、この充実した日々は続いていくことだろう。

ルミアさんと旅する世界は、どれも美しく、醜かった。

戦争をしている国もあればしていない国もある。

わたしたちのように間違えそうになっている人たちも大勢いた。

今の世の中、他人と関われず間違った答えを出してしまう人は珍しくもなんともない。

そういう人たちを救う事、理解すること、それが探偵の仕事だとルミアさんは言っていた。

それはわたしがイメージした探偵とはずいぶんと違ったけれど。

事件を解き明かし人を救うその仕事に今は魅力を感じてきている。

酷く貧乏でたまに食い逃げなんてするはめになったりするのがあれだけど。

いつか彼らのように、彼女たちのように、強く生きて、誰かを守れるようになれるだろうか。

彼がいつか見た夢の続きを。



アキヤ君がいない春が、寂しくてしかたなかった一度目。


もう一度がんばろうと、歩き出すことをはじめた二度目。


彼の夢を叶えようと、生きることをきめた三度目。


四度目も五度目も、わたしはこの春を過ごしたい。

この世界は美しい。



紛れもない世界そのものを愛するということ。


それはただ、想いひとつなのだ。

憎むべき世界も愛すべき世界も、それはただ心の在り方で変化する。

わたしはもう、暗い場所には戻らない。

太陽を恐れたりしない。

これからは、前へ、光の差すほうへ・・・・。





翌日、わたしたちはそれぞれ自由に過ごした。

久しぶりに戻ってきたマンション。わたしがすごした悲しい日々の思い出。

あの出来事から、わたしはまず両親に謝ることにした。

自分で言うのもあれだけど裕福な家庭だった。

わたしはそこの一人っ子で、かわいがられて育てられた。

けれど仕事人間な父と現実主義の母。

寂しい思いや悲しい思いは人一倍してきたつもりだ。

それを、誰かのせいにしてしまおうとさえ、わたしは考えていた。

大学に入ることを反対しなかった母。

こんなマンションを買い与えてくれた父。

わたしは彼らを毛嫌いしていた。けれどそれはわたしが子供だったからだ。

そのありがたさも大切さも今はわかる。だから帰国してすぐに実家に寄ってきた。

まだ引き払うつもりは当分ないというわたしの帰るべき場所。




そう、寂しいかどうか、悲しいかどうかに、境遇とか理由とかそんなのは必要ないんだ。


寂しいから、誰かと交わりたいから、そうした気持ちがかみ合わない。


ただそれだけで、人はおかしくなってしまうものだと思う。



だから、抱え込まずに誰かと関わる努力を諦めないでほしい。

そうしていくことで、きっと必ず最悪の未来だけは避けられると思うから。

努力が実るかどうかは人それぞれだ。けれどそれは決して不幸なことでもなんでもない。

わたしたちは限られた幸福の中、限られた不幸の中を生きている。

幸せかどうか、光か闇か、そんなことは世界をどう見るかという己の力にかかっている。

間違っているのなら間違いを受け入れよう。直していける喜びをかみ締めよう。

痛みを感じるのなら生きていることを笑おう。まだ続いていけることを喜ぼう。

そんな単純で、当たり前で、どこにでもある幸せを感じよう。

世界はいつだって自分のすぐ傍にあって、自分にしか変えられないから。


町を歩く。

一人でヘッドフォンをつけて、あの頃のように。

町を彩っていく人々の影。もうそれにおびえたりなんかしない。

世界は自分と共にある。わたしはそれを愛していけると思うから。

奪ってきた命ひとつひとつにどんな償いが出来るだろう。

きっと幸せになる資格なんかない。けれどその中でぎりぎりまであがいてみせる。

諦めよくなんかなったりしない。最後まで意地汚く裁かれて見せる。

それが彼を踏み台にして生き延びたわたしの義務だから。



一周してぼろアパートに逆戻り。

しばらくわたしはここに滞在する。

桜の木に手をあてて彼のことを思い出す。


「ねえ、覚えてる?」


わたしとあなたが始めてあった時。

花は咲いてなかったけれど、桜の木の下だったよね。


「ねえ・・・・・・」


うさぎのアレキサンドリアは旅の友になった。

彼と一緒にいると、アキヤ君の優しさを感じられる気がしたから。


「ねえ・・・・・・・・・」


わたしは強く生きていくよ!だから、大丈夫!


「わたしは・・・・・・・」


辛くても悲しくても痛くても、殺す事も死ぬ事もしないよ!


「きみのことが・・・・・・・」


だから、ねえ・・・・・・・・・。


「大好きだったんだよ・・・・・・・・」






何度涙を流しても、戻らないものもある。


けれどその痛みがある限りわたしは忘れたりなんかしない。


彼と過ごしたわずかな日々の幸せを。


彼が身をもって伝えたメッセージを。



もう少しだけ目を閉じて、願いをかけてみる。

いつか、どこか、叶うとは思えなくても、思い描いてみる。

彼が、もしも、わたしのところにまた戻ってきてくれたのなら。




「カナタ」




誰かの声が聞こえる。


彼がもしも、わたしのところにまた戻ってきてくれたのなら・・・・・。





その時はきっと、素直になれる。


伝えられる。




一緒に生きていける。





それくらいのことは、夢見ても、いいよね?







もしも神様がいるとしたら、それは月でも太陽でもない。


それはきっと、わたしの心に優しさをともしてくれた、きみのような暖かさ。




絶対に手の届かない月に手を伸ばすように、わたしは願い続ける。



いつかあなたと、もう一度めぐり合えると信じて。





久遠の月は、いつでもわたしたちの上にある。


いつでもわたしたちを、見守ってくれていた。






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