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佐藤健太物語3

起きると、朝の7時35分ぐらいだった。

今日は日曜日だけど、9時から部活の練習があるので、すぐに起き上がった。


いつもと同じように洗面所へ行って顔を洗う。

……自分の部屋に戻って高校の制服に着替える。

………。

あと部活に行くための準備を整える。


ここまですると、いつも20分ちょっとかかる。

が、今日は25分かかった…。


さて今は8時だ。


学校まではいつも自転車で20分かかるかかからないかというところなので、

5分程早く行くと考えたら、35分時間があまる計算になる。


なにすっぺー…。

ゲーム始めたらおわんなくなっちゃうしなぁ…。

遅刻は目立つからできればしたくないところだ。


琴音にメールでも…。

と一瞬思ってケータイを開くが、今は朝なので忙しいかもしれない。

俺はケータイを閉じた。


俺はなんとか有効にこの時間を使う方法を見つけようと、

なんとなくこの俺のきたない部屋を見回してみる。

それにしてもきたねえな…。


部屋の大きさは大きい方でも小さい方でもない。

その床には漫画本やらボールペンやら、しまいにゃガムの空箱やらが…散らかっている。

前いつ片付けたんだっけ?

つーかかたづけたっけ?


俺はなんとなく、座っている椅子の近くに落ちている国語の教科書を拾い上げ、

なんとなく…中身をペラペラとめくってみる。

……。 ペラ

…? ペラペラ

…これ… ペラペラペラペラ

「1年の時のやつじゃん…」



時計をみると、

30分になっていたのでちょうどいいところで片付けをやめた。

しかし片付けの途中でいろいろと思い出の品を見つけてしまったために、

部屋は全然綺麗になっていなかったーーー


時間に余裕があったので、

自転車をゆっくりこいで2年間ちょっと通ってきた道をしんみりと眺めながら学校へ向かうことにした。

1年の頃ここでこけて恥ずかしい目にあったなぁ…

その時琴音もいっしょにいたんだっけ…。

なんて今になっては笑い話にしかならない事を思い浮かべる。


……。

わざとかなしげな表情で笑ってみせる。


俺は若干上を向いて、まるで今までの事をまとめるかのように、深く息をはいた。


「おはようございまーす」

部室のドアを開けると、1、2年生の挨拶が飛んできた。

俺は軽く頭を下げて受け流す。

そのまま窓際にある椅子に腰掛けると、背もたれに寄っかかったまま、部室中を見回してみた。


…琴音はまだ来ていないらしいな。

いつも誰よりも早く部室についているのに、めずらしい。


そうこうしているうちに、部員はどんどんと集まっていき、

9時をちょっと回ったところで先生が来たので、部活が始まった。


…琴音はいない。どうしたんだろうか?

あいつに限って寝坊なんかするはずも無い。

もうちょっとしたら休憩だ。そのときにメールでもしてみよう。

と、ギターの練習をしている最中にそう思った。


休憩になった。早速俺は琴音宛にメールを打つ。


『件名:おはよう

本文:どうしたんだ琴音?

なんかあったか?

連絡もよこさずに遅刻なんてお前らしく無いじゃないか。

風邪でも引いたんだったら話は別だけど…。

みんな待ってるぞ。

早く来いよ。 』


…っと…。

さ、これで返信待ちだな。

風邪とかだったら部活がえりに見舞いにでも行くかな…。



しかし、返信早いはずの琴音から、20分たっても返信が返ってこない。

うーんこりゃおかしいよな…あいつに限ってそんな…。

これはいよいよ心配になってきた。

練習に身が入らなくなる。

先生に聞いてみたが、なにも聞いてないという。


あいつも自転車通学だ。事故にでもあったんじゃないか…。

と最悪の自体が頭をよぎる…。


「チクショー……」

俺はケータイを硬く握りしめる。



その時。部室のドアが勢い良く開き、ひどく疲れた様子の女性が入ってきた。

…琴音だ…。


「ハァ…ハァ…ふーーーっ」

琴音は息を整えるように呼吸をする。

「相沢…今は10時半だぞ…どうしたんだ」先生があきれたようにいう。

すると琴音は先生のところに向かっていき、

「すいません…。弟が急に熱を出してしまって…親がいなかったので…急いで病院に…つれていってたんです…」琴音は途中途中息を切らしながらそう言った。

「そうか…じゃあ次回からはちゃんと連絡するんだぞ。」

「はい…ご心配お掛けしました…」

琴音は本当に申し訳なさそうにそういうと、自分の席に座って練習の用意を始めた。


…なんだ…そういう事だったのか。

それなら返信できなくても仕方ないか。


ちなみにこの話は寝坊したからの口実のための嘘とかではなく、琴音の弟は本当に熱を出して寝込んでいたそうだ。弟さんに失礼だが、琴音が寝込む事にならなくてよかった。


「心配」は一気になくなった。

これでまたいつもどおりだ…。


部活が終わったのは4時ごろである。

空は夕日が俺たちを照らし、綺麗な夕焼けになっていた。

俺はいつも通りに帰る支度をして、琴音の待つ校門へ向かった。

「待たせたなー琴音…」琴音に近づいて行く。

「じゃあ行こっか?」琴音が歩いて行く方向に体を向ける。


二人並んで歩き出して少し進んだとき、数学の教科書を教室に置きっぱなしだったことを思い出した。

今朝部屋の片付けもどきをしているとき、数学の教科書だけない事に気がついたのだ。


「あっ忘れ物があったんだった!」と叫んでもときた道を走る。

「えっ?」と琴音も一緒にこようとしたので、

「琴音はここで待っててくれよ!マッハで戻ってくるから‼」

そう言って、振り向かずに教室まで階段を駆け上がった。


「あ、やっぱりあった。」教室に着いて自分の机の中を探ってみたら、普通に数学の教科書が入っていた。

「じゃぁもどるか。」

50m走とかは全然速くはしれないのに、

こういう時は結構速く走れたりする。

誰もいない学校というのがテンション上がるからなんだろうか?


そんな事を考えながら、できるだけ速く走って行くと、

なんだか外が騒がしい。

校門をちょっと行ったらへんだろうか、人が微妙に集まっている。


その近くには、救急車やパトカーや、

うちの学校の壁に衝突して前が変な風になっている車があった。


…交通事故だな…。

パトカーや救急車が来てるところをみると、

ハンドル操作を誤って壁に衝突した運転手が重傷ですってとこか。


いや、ご苦労なこった…。

通り過ぎようとしたが一瞬、琴音が巻き込まれてるんじゃないかと思った。

いやいや…琴音はもうちょっといったところで俺を待っているはずだ。

つーかそんなこと普通あり得ない。

マンネリ化した俺の日常で、こんなドラマティックな事が起こるはずがない…。


…そんな事を考え、一生懸命 そんな事はあり得ない… と琴音が巻き込まれた可能性を否定しようとしたが、

やはり心配だ。琴音が待っているであろう場所へ足を早めた。

心臓が締め付けられるようになった。


…。


…ここだ…。


……すぐそこに琴音はいたはずだ…。


心臓が跳ね上がり、呼吸が荒くなった。


琴音が待っているであろう場所に、琴音の姿は…


…無かった


夕日によって長く伸びた俺の影が地面にうつっているだけだった。


俺はそこに、目を見開いて口を開けたまま立ち尽くした。


俺の背後では、野次馬達のざわつきが聞こえる。

救急隊員の叫び声が聞こえる。

救急車にけが人を乗せる音が聞こえる…


最悪の状況が頭を支配した。

琴音はあの事故に巻き込まれた。

事故にあった、前が不自然にひしゃげた車が頭に浮かぶ。

琴音はあの車に巻き込まれた。

俺はここで琴音をまたせていた。

俺が琴音を…


「ぅぁああ…っっ!!」

わけのわからない唸り声とともに、俺は必死になって辺りを見渡した。


「嘘だ、そんなこと…無い。ないっ!!あり得ない!!」


どこかに琴音が立っていないか、

野次馬の中にいないか、

どこかからひょっこり顔を出してきたりしないか…。


呼吸を荒げて必死に探したが、どこにもいない。

救急車が目にとまる。


しかし救急車はみたくなかった。

認める事になってしまうことを恐れたからだ。


「琴音えええええぇぇっ……」

絞り出すように叫んだが、返事は返ってこなかった。


深く深呼吸をすると、声が震えているのがわかった。


まだ琴音が巻き込まれたとわかったわけでもないのに、

泣きだしそうになってくる…。


琴音…琴音ぇぇっ…!


しかしそこで、なにを勝手に決めつけてるんだと、

冷静になれと、自分を奮い立たせた。


しかしその考えは、野次馬のおばさん達の会話によって、一瞬にして崩れ落ちた。


「…あの女の子、ここの学校の子よね…」


そのあとも何かいっていたが、そこまで聞けばもう十分だった。

この時間、学校に残っていた生徒の数なんてたかがしれてる。


俺は全力で救急車の方へ走って行った。

野次馬を蹴散らし、一番前へ躍り出る。

息を切らして呼吸を整えるようにして前に上体をかがませる。

怖い。この前には琴音がいるかもしれない。

だが、逃げるわけにもいかない。

そして…決心してばっと前を向いた。


全身の毛が逆立ったように思えた。


救急車の中には、血だらけで…

四肢が変に折れ曲がった、



…琴音が横たわっていた。



「うああああッあアあぁぁあアアアああぁああああぁぁっぁ!!!っぁぁぁぁ……」



空は夕日が俺たちを照らし、綺麗な夕焼けになっていた。

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