佐藤健太物語1
ジリリリリリリ…
朝6時。目覚まし時計が鳴り響いた。
ジリリリリリリ…
ジリリリリリリ…
ジリリリッ。
俺はベッドの中から手を延ばしてそれを止めると、
5秒数えてベッドから跳ね起きた。
毎日やってきたとおり、洗面所へ行って顔を洗い、
自分の部屋に戻ってパジャマから高校の制服に着替える。
俺は高校3年生だが、中学の頃も同じようなことをやっていたから
ほぼ6年間、同じことをしてきた。
俺はギターを持って、軽音部の朝練に向かった。
キーンコーンカーンコーン…
「はーいじゃあ今日はここまでー!かいさーん」
「ありがとうございましたー」
今日の朝練はここまでだ。
今日も先生厳しかったなぁー…。
……。
正直、今のこの俺の日常はマンネリ化していた。
なんて新鮮味のないつまらない日々なんだろうか?
…2時間めの数学の時間にふとそう思った。
いや、数学の授業がつまらなかったからそう思っただけだろう。
でも実際に、毎日がつまらないとは思っていた。
英語の小林は今日も眠気を誘う授業しかやらないし、
この数学の上村も、マイペースに黒板に字を書き連ねている。
どこまでもつまらない毎日だ。
キーンコーンカーンコーン…
昼休み…俺はいつもの通り、学食に向かった。
学食のおばちゃんにラーメンを一つ頼み、
受け取ると、俺はいつもの席に座った…
キーンコーンカーンコーン…
6時間目が終わり、帰っていくものやら部活に向かうものやらで、
教室はすぐに空っぽになった。
そして俺も、部室に向かった。
「こんにちはー」
部室のドアを開けると、1、2年生の後輩たちに挨拶された。
そして俺はそれを頭を軽く下げて受け流すー…
…これもいつも通りだ。
ジャーン!!
ギターやらなんやらの音が音楽室に鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン…
「おい佐藤!このあと一緒にコンビニ行こうぜ!」
部活が終わってただいま7時半、友達の鈴木が話しかけてきた。
これもまた恒例行事だ。
そして俺はいつも決まってこう答える。
「いや…今日も用事があって、行けないからさ、また今度な。」
「そっかーお前も大変なんだなー」と鈴木。
いい加減諦めろよな…毎日これのループなんだ、答える俺もつかれるんだよ。
俺が軽音部に入部したのは、女子にもてたかったからだ。
そんな理由で、2年間ちょっとも頑張ってきたのだ。
うちの部活は、おそらく他の学校でもそうだと思うが、
どうやら「けいおん!」という軽音部が舞台のアニメが流行っているらしいな。
そのアニメのおかげで部員数は80人以上になり、
活動も前より峻烈を極めるものとなった。
俺の頑張りは結構すごいものだと思う。
ここまで続けてこれたのは理由が一つあったからだ。
「あ、健太くん!」
俺が校門の前まで差し掛かった時、校門近くにいた女生徒がこっち気づき、近よってきた。
「よ、琴音。じゃ、いこうぜ。」
ふたりは横に並んで夜の道を歩いた。
凍えるような寒さの中、街灯の光を頼りに進んで行った。
「もうすっかり冬だね~。7時半でこんなに真っ暗なんだもん」琴音が呟いた。
「ああ、そうだな…」俺はあいまいに相づちを打つ。
そう。俺が軽音部を続けてこれた理由、それはこの、相沢琴音の存在だ。
2年生になるかならないかの時期、俺は勇気を振り絞って
同じ軽音部だった琴音に告白をした。
あの時はすんなりとOKされてビックリしたもんだ…
まぁともかくそれで俺は、毎日こうやって琴音と一緒にたわいもない話をしながら帰っているわけだ。
琴音がいるから俺も頑張れるし、琴音がいたから軽音部をやめずに頑張ってこれた。
俺が生きている意味はこいつなのかもしれない。
全部琴音のおかげだ…
ヒューーッと冷たい風が吹き抜ける。
「ありがとな、琴音…」と、俺は呟いた。
いつもの通り琴音を家まで送って、俺も自宅に帰った。
琴音だけは、マンネリ化した俺の日常の中でひときわ輝いていた。
(あいつだけは何があっても絶対に守ってみせる…)
そんな漫画やアニメの主人公みたいなセリフを本気で言える。
それほど俺はあいつの事を大切に思っていた。
この日がいつまでも続けば…そんな事を思いながら、
今日もベッドに入って部屋の明かりを消した。
その時の俺は、これから起こる事など知るよしもなかった。