第19話:お遊戯会の邪魔をする奴は、3歳児(チート)でも容赦しない
「――ふぇぇん、お外のおじちゃんたち、まだ寝んねちない(しない)のぉ?」
要塞託児所『緑のゆりかご』の2階、お遊戯室。オークの血を引く長男(外見3歳、チャームポイントは小さな牙)が、俺が緑のフェルトで作ってやった『小人の帽子』を両手でいじりながら、不満そうにふくれっ面をしていた。
「お兄ちゃん、お外のおじちゃんたちは、次男の睡眠魔法をちょっとだけ抵抗してるんだよ。でも、もうすぐみんな、すーすー寝ちゃうから大丈夫だよ?」
隣では、エルフの血を引く次男(同じく外見3歳、金髪の美少年)が、小さな世界樹の枝(おもちゃの杖)を振りながら、おしゃまに胸を張っていた。防壁の外では、先ほど次男が放った国家戦略級の睡眠結界魔法により、エルフの精霊聖騎士団、魔王軍の粛正部隊、そして人類の国境守備隊の計5千の軍勢が、地響きを立ててばったばったと寝かせられている真っ最中だった。
だが、さすがは各勢力の精鋭たち。一部の高位魔術師や、強靭な精神力を持つ聖騎士長、魔王軍の副官クラスの数名が、泡を吹き、白目を剥きながらも、ガタガタと震える足でなんとか踏みとどまり、呪文を唱えようとしていた。
「お、おのれ……3歳児の幼児が、無詠唱で神話級の結界術だと……!? どんな悍ましき、洗脳教育(英才教育)を施せば、このようなバケモノが育つというのだ……! レント……血統魔術師レント、やはり貴様は人類の敵だ……!」
エルフの聖騎士長が、膝を震わせながら防壁の上を見上げて絶叫する。その言葉を、お遊戯室の窓から聞いた長男と次男は、同時に小さな眉をひそめた。
「……あのおじちゃん、パパの悪口言った」
「うん。パパは邪悪じゃないよ。毎日、美味しいトマトリゾット作ってくれる、世界一優しいお父様なのにね」
子供たちの瞳の奥で、ゴブ次のチート遺伝子と、世界最高峰の母親たち(オーク女王と聖女)から受け継いだ超常の魔力が、パチパチと不穏な音を立てて同期を始めた。子供たちにとって、自分たちを世間の偏見から守り、毎日エプロン姿で愛情を注いでくれるレント(大父)は、神をも超える絶対的な聖域なのである。それを「邪悪」呼ばわりするなど、彼らの純粋な逆鱗に触れる行為に他ならなかった。
「お兄ちゃん、パパはお部屋でおやつ(魔力プリン)の準備をしてるから、今のうちに、あのお外のうるさいおじちゃんたちを、めっ、しちゃおう?」
「うん! お遊戯会のダンスの邪魔、絶対に許さないんだから!」
長男は、俺が木を削って作ってやった『おもちゃの剣』を握り直すと、2階の窓から庭へと軽やかに飛び降りた。トォッ、という可愛い着地音と共に、地面の石畳がクレーター状に粉砕される。怪力無双のオークゴブリンである。
「な、何だ、あのガキは……っ!? 突撃してきたぞ!」
生き残っていた魔王軍の副官(大悪魔)が、大鎌を構えて身構えた。
「はぁぁぁぁぁっっっ!!!」
長男が小さな体を目一杯にひねり、おもちゃの剣を横一文字に振るった。
ドバァァァァァンッッッ!!!!!
ただの木の棒から放たれたのは、空間そのものを圧縮して叩きつけるような、凄まじい『覇気』の衝撃波だった。防壁の外の平原を烈風が吹き荒れ、生き残っていた魔王軍の重装歩兵数十名が、鎧ごと一瞬で遥か彼方の地平線へと文字通り「消し飛んで」いった。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!? 木の枝を振っただけで、我が軍の精鋭悪魔が肉団子のように吹き飛んだぞ!?」
「次は僕の番だよ」
次男が庭の防壁の上にふわりと舞い降り、小さな世界樹の杖を上空へ掲げた。彼の背後には、エルフの精霊王たちが「聖女様の御子、可愛いよぉ」と、ヨシヨシするような幻影となって無数に群がっている。精霊たちからも狂信的に愛されているのだ。
「精霊さん、お外のおじちゃんたちの武器を、全部『おいしいバナナ』に変えちゃって?」
次男がパチン、と指を鳴らした瞬間。生き残っていたエルフの聖騎士たちや人類の守備隊が持っていた、国家宝物級の魔導剣、神聖なる弓矢、大斧のすべてが、一瞬にして光に包まれ――完熟した「黄色いバナナ」へと物質変換された。
「な……何だとぉぉぉぉッ!? 我が家系の家宝たる聖剣が……皮の剥きやすいバナナに……!? 物質の根源を書き換える、神の錬金術だと!? 3歳児が平然と使う魔法か、これがァァァッ!!」
聖騎士長がバナナを握りしめながら、絶望に顔を歪めて叫ぶ。
「お兄ちゃん、トドメだよ!」
「おーっ!」
長男と次男は手をつなぎ、息を合わせて大きく息を吸い込んだ。彼らが放ったのは、レントの作った『お遊戯会の歌(どんぐりころころの替え歌)』をベースにした、精神破壊(超脱力)のデュエットだった。
『♪おじちゃんたち〜、バナナを食べて〜、ねんねしてね〜♪』
ズドォォォォォォォンッッッ!!!!!
子供たちの可愛い歌声が、ゴブ次のスキル波動と混ざり合い、半径数キロメートルのすべての「戦意」と「魔力」を完全に吸い尽くす、究極の脱力結界へと昇華された。残っていたすべての将校、聖騎士長、大悪魔たちが、「……あ、バナナおいしい……パパ、おやすみなさい……」と、涙を流しながらバナナを口にくわえたまま、その場にバタバタと頽れ、完全に爆睡・戦闘不能となった。
5千の大軍勢、文字通りの【完全消滅(強制お昼寝)】である。
「ふぅ、これで静かになったね、お兄ちゃん」
「うん! ダンスの練習の続き、やろう!」
二人のチート幼児が、笑顔でハイタッチをして2階へ戻っていく。その直後、キッチンから「おーい、みんなー! 魔力プリンが冷えたぞー!」と、エプロン姿の俺が何も知らずに顔を出した。窓の外を見渡した俺は、平原に転がる5千人の兵士たちと、彼らが一様にバナナを握りしめてスースーと寝ている異常な光景を見て、持っていたおたまを床に落とした。
「……いや、何が起きたら大軍勢がバナナ持って寝るんだよぉぉぉぉぉッッッ!!!」
俺の悲鳴が、世界の勢力図を完全に書き換えた、世界で最も平和な要塞託児所に空しく響き渡るのだった。




