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無職とメイドの冥土生活  作者: はこ


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第3話 「脱出口」

 二人で部屋を調査し始めてしばらく時間が経った。

 この部屋にいると本当に時間の感覚が狂うな。

 目覚めてからだとどれくらい時間が経過しただろう、体感だと30分程度な気もしているが、実は1時間、もしくは2時間以上とか経っていたりするのか?


 しかし、未だに床の穴以外に目ぼしい手掛かりはなく、もう部屋を何周見回ったのかわからない。


「ここ、どこなんでしょうか……」


 不安や恐怖を紛らわす意味もあるのだろう、小春ちゃんはずっと俺に話しかけてくる。


「うーん……もしかしたら異世界なんてこともあるのかな」


 半分冗談だが、ここで「殺人鬼のアジトかもしれないぞ」なんて言うよりはいいよね。え、いいよね?


「異世界ですか? だったら転生して赤ちゃんからやり直したかったです」


「それは確かにそうだなぁ。でも赤ちゃんの状態でここに放り込まれたらいきなり詰みかもね」


「あ、それは確かにそうですね……」


 そういう設定の作品を見たり読んだりするんだろうか。

 異世界と聞いて転生というワードがスッと出てくるあたり、知識はありそうな気がする。


「わたし、一緒に目覚めた相手が御守さんでよかったです」


 彼女が唐突に話題を変えてきた。


「ん……? 俺現状何の助けにもなってないと思うけど……」


「なってますよ。御守さんは……なんていうか、一緒にいて落ち着くというか……安心できる人です」


 え、なになになに。なに急に!?

 30歳無職はあまり褒められ慣れてない存在なんですよ?

 急にそんなこと言うから、ほらまた心臓がビックリしてそろそろとれちゃいそうじゃないか。


「わたし男の人のことあまりわからないですけど、最初に自分がここで目が覚めて、この逃げ場のない部屋で知らない男の人が寝てるってわかったとき、すごく怖かったんです……」


 それは当然そうだろうな。世の中野蛮で物騒な男も多いのは事実だし。


「でも、御守さんが起きて、優しい声で話しかけてくれて、穴に引っかかって笑わせてくれて……」


 ……別に笑わせたかったわけじゃないんだけどねアレは。


「ク……フフ……」


 思い出し笑いやめてね。


「その後も前向きになれるように話してくれたり、トイレのときも紳士な対応をしてくれたり……こんな状況なのにいい意味で楽観的な気がして安心できるというか……まだ短い時間しか一緒に過ごしてないけど、この人は信頼できるって思いました!」


「んー……。信用するにはまだ早すぎるんじゃないかな?」


 すみません、クールぶってしまいました。

 本当は舞い上がるほど嬉しいのに「早すぎるんじゃないカナ?」とかスカしてしまいました。


 まぁでも確かに、ここで過ごした時間が仮に1時間だったとして、外の世界での1時間とは尺度がまるで違うのは事実だと思う。

 いつ死ぬのか、本当に脱出できるのかもわからない空間で、唯一の運命共同体として過ごしているんだもんな。

 通常の何倍もの速度で親密になっていくのも当然ではあるか。


 でも……信頼できる、か……。なんか、柄にもなく泣きそうだなぁ……。

 外の世界ではそんな風に言ってくれる人は誰もいなかったからな……。

 家族も会社も、誰も自分を認めてくれなくて、友達だった奴らもみんな離れていって、だったら独立して一人で結果を出して全員見返してやる! って意気込んだものの、結局それも上手くいかなかった結果生まれたのが30歳無職という存在なのだよ。


 もしこんな風に言ってくれる人が近くにいたなら、「二度と目覚めなかったらいいのに」なんて思わなかったかもしれないなぁ……。


「俺は全部当たり前のことをしただけだよ。でもなんか……ありがとう」


 彼女の言葉に胸を熱くしながら、一旦落ち着こうと壁に手をついたその瞬間だった────


ニョン


 自分がいる壁と反対側の壁に、突如奇妙な音を立てて大きな穴が開いた。

 穴の大きさは縦横2メートルくらいだろうか。

 穴の向こうは……真っ赤な部屋に見える。


「小春ちゃん!」


 部屋の隅を調べていた彼女も、音に気付いたのかすでに壁に出現した巨大穴のほうを見ていた。


「脱出口……!?」


 何がキッカケになったのかはわからないが、とにかくこの部屋から出られる道が突如開けたのだ。

 しかしなんだろうかこの穴の開き方は……?

 ドアが開いた、という感じではない。

 まるで壁がスライムだとでも言うかのように、壁の真ん中からグニョンと広がるようにして穴が開いたように見えた。

 だがしかし、少し前に触ったとき壁はすべて硬かったはず……。


 現時点で一つ断言できるとすれば、今の人間の科学力でこれを作れるとは思えないな……。そう考えると少しゾっとする。

 やはりここは俺たちがいた世界ではないということなのか……。

 

 しかし今はそんなことを考えている場合ではない。

 この穴もいつまで空いているのかわからない。

 とにかく早く二人であの穴を通り抜けなければ。


「行こう!」


 俺は壁を離れ、反対側の壁へ駆け出した。

 すると、なんということだ、1秒もどうかという早さで穴が完全に塞がってしまったではないか。

 やはり時間制限があったということか……?

 いやそれにしてはあまりにも短すぎる気がする。

 穴が空いていたとき俺は……そうだ、壁に手をついていた。


 壁に手をつくのが穴が開く条件だろうか?

 いやしかし、部屋を調べているときに壁には何度も触れているはずだが...…


「御守さん、さっきのはどういう……?」


「まだ詳しくはわからないけど、俺が壁に手をついた瞬間に穴が開いて、離れた瞬間に閉じたように見えた……」


「でも壁にはこれまで何度も触れてきてますよね……?」


「うん、つまり、多分壁のどこでもいいわけじゃないんだと思う、反応する場所が限られてるんじゃないかな」


「わかりました、反応する場所を特定しましょう」


 俺たちは穴が出現したのとは反対側の壁に戻り、ペタペタと手当たり次第に壁を触っていく。

 さっき俺は確か部屋の真ん中あたりにいたはずだ。

 そして手を置いていたのは肩くらいの高さだったような……。


「このへんかな……?」


ニョン


「開きました!」


 よかった、もしかしたらさっきの穴が1回限りのチャンスだったという可能性も考えていたが、そこまで鬼畜ではなかったか。


「よし、ちょっと色々検証したいことがあるから試させてほしい」


「はい!」


 脱出の突破口が見えて、小春ちゃんも元気が出てきたようだ。


 とりあえず、俺は壁の特定したポイント(センサー)から手を離したりくっつけたりを繰り返してみた。

 予想通り、脱出口は連動して閉じたり開いたりしている。

 センサーに触れると開くのは一瞬で、閉じるときは1秒程度かかるようだ。

 わかりやすく表現すると、開くときはニョン 閉じるときはニューンだ。当然擬音だが、俺にはそう聞こえる。

 しかし穴の開閉は何回見ても奇妙な動きだな……一体どんな技術なんだこれ……?


 次に、俺は手を服の袖で覆い、そのままセンサーに触れてみた。

 脱出口は……開かない。

 次は袖を捲って肘を直接当ててみる。

 今度は開いた。

 つまり、センサーには何でもいいから物が触れていればいいというわけではなく、生身のどこかで触れないといけないということか。


 最後に、少しずつ手を上下左右に動かしながらセンサーに触れる。

 センサーの範囲を知るためだ。

 結果、おそらくセンサーのエリアは大体20センチ四方ということがわかった。

 そしてセンサーの位置、床の穴、脱出口、この3つがちょうど部屋の真ん中で一直線になるような配置だ。


 脱出口の向こう側は、こちらから見る限りただの四角い部屋、という感じだ。

 大きく違う点はやはり全体が白ではなく赤であるということか。

 逆に言えばそれ以外に目立ったところはなさそうだが……。


 さて……問題はここから。


 脱出口はセンサーから手を離せば1秒程度で閉じ切ってしまう。

 センサーのある壁から脱出口のある壁まではおおよそ10メートルくらいってところか。

 センサーから手を離した瞬間全力ダッシュしたとしても、穴を通り抜けるのは絶対無理だろう、間に合わない。

 お、俺の足が遅いからとかではないぞ?

 たとえ短距離の世界記録を持っていたとしてもこれは無理な距離だ。


 つまり、どちらか一人がセンサーに触れ、もう一人が脱出するしか道がないということか……?


「御守さん……これって……」


 彼女も気付いたようだ。


「うん、これ……おそらく一人しか脱出口を抜けられない仕組みになってるね」


「そんな……せっかくこの部屋から抜け出せる道ができたのに……」


 先程まで晴れやかだった彼女の顔が一瞬にして曇っていく。

 

 うーん……、しかしあの壁の穴を通り抜けた人間が助かるというのも、俺たちの勝手な希望的観測でしかないしな……。 

 「脱出口」なんてのも俺たちが勝手に付けた名前なわけだし、向こうの部屋にも何もなさそうで出口という感じは今のところしない。


 なんにせよ、実際に通り抜けてみないと何も始まらないということか……。

 向こうの部屋にも何かしらのセンサーがあるかもしれないしな。


「小春ちゃん、俺たちのどちらかがあの穴を通り抜けて、向こうの部屋を調査する必要がある。でも、穴を通った瞬間何かが起きて、最悪の場合どちらかが死ぬ……なんて可能性もなくはないと思ってる」


 この謎の部屋がどちらか一人を生き残らせるために存在するのだとしたら、そういうことをしてくる可能性もゼロではないよな。


 残酷なもんだ。

 ほんの少し前までただの運命共同体だったハズなのに、今の状況は見方によっては"敵同士”にすら見えてしまう。

 彼女は少し考え込んだ後、覚悟を決めたように口を開いた。


「わかりました。わたしがここでセンサーに触れてます。御守さんは穴を通って向こうの部屋へ行ってください」


「……一応理由を聞いてもいい?」


「単純に生存率の問題です。御守さんはわたしより頭が切れますし、思慮深いです。わたしよりいろんなことが見えてると思います。このセンサーに気付いたのも御守さんですし……。もし向こうの部屋に何か仕掛けがあるなら、御守さんのほうが気付ける可能性が高いと思います。」


 いや、センサーはマジで偶然なんだけどね。俺のことめっちゃ買い被ってるな。


 しかし強いな、この子は……。この状況で随分と肝が据わっている。

 ストレートに考えるなら、先へと進んだ人間が脱出できるというのが王道の考え方だと思う。

 普通は自分が真っ先に通り抜けたいと思うんじゃないか?

 でも、この子はあくまで2人での脱出に焦点を当てて、少しでもそれが実現できる可能性が高い選択肢を選んでいる、ということだろうか。

 こんな子を見捨てたりしたら(ばち)が当たるってもんだ。

 今の状況がだいぶ罰ではあるけど。


「わかった、俺が行くよ。絶対に君を見捨てたりしないから安心して」


「はい、信じてます」


 真っ直ぐな目。

 俺のスレた心が浄化されるようだ……。

 世の中、こんな子もいるんだなぁ……まだまだ捨てたもんじゃないね世の中。


「じゃあ、開けますね……」


「うん、行ってくるよ」


ニョン


 俺は再び開いた壁の穴に向かって歩いていった。

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