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人を助けたら地獄に堕ちました!  作者: はこ


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第2話 「30歳無職です」

 白い部屋で目覚めてから10分程度が経過しただろうか。

 今すぐ危機的状況が訪れるわけではないとわかった俺は、この部屋の"同居人”である彼女との距離を縮めることにした。変な意味ではなく、だ。

 俺たちに共通点があるなら、連れてこられた理由ももしかしたらわかるかもしれない。


「まずは情報を共有したいし、簡単に自己紹介しようか。

 俺は御守(みもり)、とりあえず名字だけ。年齢は20……あっ違うな」


「30歳無職、ですよね?」


「えっ!?!?」


 な、なんで俺のパーソナルでセンシティブな情報をこの娘が知っているんだ。

 もしかして知り合い? い、いややっぱり君さては本当は”そちら側”の人間なのでは……!


「起きるときに言ってましたよ、自分で。」


 なんということでしょう。

 そう言われてみれば口に出して言ってたかも、こんにちは30歳無職の俺……とかなんとか。

 寝起き第一声でそんなこと言うやつ客観的に見てキモすぎてるな。

 穴があったら入りたいんだけど床の穴、小さすぎて入れないです。


「そっか......えっと、それじゃあ30歳無職です」


 これじゃあ自己紹介っていうより事故紹介ではないですか? 引かれたかな。

 いやこんな状況だ、そんなのはどうでもいいな。お見合いしてるわけじゃないんだし。

 逆にもしお見合いだとしたら30歳無職ですなんて自己紹介するの面白すぎるな。何しに来たんだコイツって感じだよな。即破談になりそう。


「それじゃあ御守さんって呼びますね。わたしは小春(こはる)と言います。20歳で……その……求職中です......」


 休職中?仕事をお休みしているということだろうか? それとも?


「お休み中ってこと?」


「あっいや、そっちではなくて……仕事を探している最中というか……」


 あぁ、そっちね。

 日本語って紛らわしいよね。他の言語の紛らわしさ知らないけど。

 つまり今は仕事をしてない……おぉ、つまり無職仲間ってことか。


「なるほど、早速共通点だな……働いてない身分ね……。つまり働かない人間への制裁がこの状況ということも……?」


「そっ、そんな……!!! わたし働く気はあるのに……」


「いやごめんごめん、軽いジョークだから……」


 結構ピュアな子なのかな、反応が眩しくてかわいい。


「小春さん…小春ちゃんかな?」


「どちらでも呼びやすいほうでどうぞ」


 女の子の呼び方って難しいなぁ……。

 仕事関係というわけでも友人関係というわけでもないし。

 小春というのは下の名前なのかな。

 名字でもありそうだが、どちらでもいいか別に。


 でもこんな子が職を見つけられていないというのは意外だな。

 やらしい話、"顔採用”なんてやってるところであれば即内定をもらえそうな気がするんだが……。

 まぁあまりパーソナルな部分に踏み込むのもマナー違反だろうしな、そもそも今必要な情報ではないから次に進もう。


 「昨日の記憶はある? 寝る前になにしてたとか……」


 「……寝る前というか、わたしの最後の記憶は足を滑らせて家の階段から落ちたところなんです……。そこから先の記憶がなくて、目覚めたらここに……」


 ドジっ子だー! ……じゃなくて、なに?

 てっきり俺と同じで普通に寝て起きたらこの場所にいたものだと思い込んでいたけど違うのか。

 ……あまり不吉なことを考えたくはないけど、ここはあの世で実は俺も死んでいるなんてことも……。


「俺は普通に寝て起きたらここにいた感じなんだよね」


「そうなんですね……じゃあ"あの世”とかじゃないのかな……」

 

 何はともあれ、この状況を作り出した元凶のことも当然気にはなるが、まずはここから脱出するのが先決か。

 なんせこの部屋には本当に何もない。

 かつてネットで調べた情報によると、水分を摂らないと半日もすれば脱水症状が始まると書いてあった気がする。

 そうなれば集中力も低下して、今より判断力は格段に鈍くなるだろう。

 つまり時間との勝負か。


「とりあえず脱出の糸口を見つけよう、きっと何かあるはずだよ」


「どうしてそう思うんですか……? 本当に何もない部屋なんですよ……。わたしたちきっとこのままここで……」

 

 完全に不安に押し潰されかけちゃってるな。

 しかし隣で沈んでてもらっても気まずいしなぁ。ちょっとは前を向いてもらわないと。


「まず、俺たちをただ殺すのが目的なら、こんなところに閉じ込めるまでもなく殺せたはずだし、何か理由があって生かされてると思うんだよね」


「でも……ただ殺すんじゃなくて、その……わたしたちの極限状態を観察しながら殺そうとしているという考え方はできませんか……?」


 マ、マズイ、10秒で論破されそうだ。この子、できる……!


「……うん、それも考えたけど、やっぱりこの穴の存在が気になるんだよね」


「穴ですか……」


「意味もなくこんな穴つけるかな普通? 穴なんて作らず完全に密閉状態にしたほうがよっぽど極限状態にはなるでしょ。空気についてもそうだけど……ちょっと汚い話、例えば俺たちが今、排泄したくなったらどうする?」


 これってセクハラですか? 大丈夫だと信じたい。

 彼女は少し黙り込んだ後、口を開いた。


「この穴にするしかない……かもです」


「そうだよね、俺もそうすると思う。穴の下に何があるかはわからないけど、それでもこの部屋を汚したり臭わせたくないからね。もし仮に俺が人の極限状態を見たいだけなら、そんな逃げ道は用意しないし、この部屋のどこかで用を足させて、くっさい部屋で絶望していく人間を眺めて楽しむかな。もちろんそんな趣味はないから例え話なんだけど……」


「……。」


 あれ、彼女がちょっと引いてるような……。例え話って言ったのになんでぇ……。

 ともあれ、俺もかなりスレた人間だからな、こういう思考は悲しいけど得意分野だ……。


「じゃあ逆に、誰かがわたしたちを飼おうとしているという考えはどうですか……? 私たちは、その……男女ですし……」


 なるほどね……確かに理屈は通っているかも。

 人間が動物を飼う場合、繁殖を目的とするなら"つがい”にして閉じ込めるのは一般的な考え方だ。


「うーん、だとしたら逆に何もなさすぎる気がするかな……。人間が動物を飼うときって、出来るだけストレスを与えないように快適な住環境を用意するよね? もし俺たちを飼って繁殖させたいならこの部屋は人間にとってストレスフルすぎると思うけどなー……」


 さっきから一見平気な顔で「繁殖」とか言ってるけど、内心ドギマギしていますよ俺は。


「それもそうですね……」


「うん、だから元凶は俺たちをただ殺したいわけでも、ただ生かしたいわけでもない気がする。強いて言うなら『試してる』っていう可能性が一番高いんじゃないかな?」


 半分はハッタリだ。

 情報がなさすぎるし、当然俺の推理にも無理があるところはある。

 この穴が本当にただのお情け用トイレだという可能性もある……。

 でもネガティブなことを考えていても仕方がないしな。

 楽観的にいこうよ、何事も。


「あ、あの……」


「ん? 何か新しい発見あった?」


「いえ、そうではなくて……、実はさっきから……あの……尿意が……」


 なんということだ、排泄を例に挙げたら早速その状況が訪れてしまったというのか!


「元々この部屋で目覚めた時から少しあったんですが、さっきのお話の途中で意識してしまって……尿意がより一層強くなってしまって……」


 あーわかるわかる!意識すると急に身体が準備を始めちゃうんだよなぁ...…なんて共感している場合でもないか。

 どうしよう。やっぱりこの穴にしてもらうしかないよな……。穴に排泄したら良からぬことが起こったりするのかな……。

 いやむしろこの穴に排泄することが次のステージに進むための条件ということもあるかも?

 おしっこおめでとう! ステージクリア! みたいな? 

 流石にないか。 情報がなさすぎてなーんにもわからん。


「御守さーん……」


 彼女は困った顔でこちらを見ながら足をクネクネさせている。結構限界が近いんだろうな。


「そうだね……もうこの穴にするしかないよ。俺は部屋の隅で反対を向いて耳を塞いでおくから、その間に済ませて?」


 我ながら紳士的な提案すぎるな、褒めてほしいぞ。

 俺がそういう趣味の変態だったら大変な状況だよ? これ。

 俺は足早に部屋の隅まで行くと、そのまま目を閉じた。

 穴と彼女に背を向けているわけなので目を瞑る必要は正直ないんだけど、なんとなく、ね。


「じゃあ耳塞ぐよー」


「ちゃんとこっち向かないかどうか、監視してますからね!」


 監視してるだと……? つまり彼女はこっちを向いてお花を摘むということ?

 いや身体は横向きでもこちらを監視はできるか。

 どんな体勢なんだろう、気になる……。


 しかし改めてとんでもない状況だな。

 壁も挟まない状態で、真後ろで今日会ったばかりの女の子が用を足しているという……。

 人生でこんな体験をする人間もそういないだろうな。

 いやこんな謎の部屋に閉じ込められるほうが経験としては珍しいか。



 耳を塞いでから1分くらい経ったか? 流石にそろそろ終わったと思うんだけど、憶測で振り返って事故ったら終わりだなー……。

 と考えていたところで、肩を叩かれた。


「終わりました。紳士的な対応をありがとうございました」


 スッキリしたからなのか、彼女の顔は少し晴れやかなような気がする。

 なんにせよ、少しは俺の評価が上がったかな?

 信用ポイント、ゲットだぜ!


「うーん……俺もそこまで尿意があるわけではないけど、ついでに済ませておこうかな?」


「じゃあ次はわたしがあっち向いてますね」


「うん、まぁ見ててもいいけどね」


「馬鹿なこと言ってないで早く済ませてください」


 マズイ、流れに任せて脳死でボケてしまった。

 一瞬ドン引かれるかと思ってヒヤッとしたが、今の冷静なツッコミから察するに若干呆れられたくらいかな。セーフ。

 いきなり貯め始めた信用ポイントを大放出するところだったが、少しはいい関係を築け始めているのではないか?


 ちなみにあんなことを言っておいてなんだが、俺は経験上、人に見られたり近くに立たれたりすると緊張して一滴も出なくなるタイプだ。

 もし彼女が素直すぎて「それでは拝見させていただきます。」なんて返答してきていたら俺はどうしていただろうな……いやそんな子ではないだろうけどね。


 さて、貴重な水分とおさらばしたら、いよいよ本格的に脱出手段を考えないといけないか。

 とは言っても手がかりは現状トイレと化している小さな穴1つだけだ。

 彼女と協力して他になにか見つけられればいいけど……。


「終わったよ」


 一応使っていない左手で彼女の肩を叩く。紳士の嗜みは細かいところからだ。


「それじゃ、改めてこの部屋を色々と調べてみよっか」


「はい、頑張りましょう」


 彼女はなんだか少し前より意欲的になったように見える。

 ネガティブになってもなにも好転はしないだろうし、うんうん、いいことだ。


 そして俺たちはそれぞれ、部屋をくまなく調査し始めた。

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