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無職とメイドの冥土生活  作者: はこ


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第1話 「白い部屋」


 (まぶた)を光が貫通し、一日の始まりを告げてくる。

 まだおぼろげな意識の中で、一日を始めさすまいと、必死に目を開けずに抵抗する。


 正直起きたくない……いろんな意味で起きたくなかった。

 昨日の夜、眠りにつく前に「このまま二度と目覚めなかったらいいのに」なんて無駄なことを呟きながら寝たが、俺の脳は願いを聞き入れてはくれなかったのか。……当たり前か。


 俺は20代無職、新進気鋭の若手ニート。

 ……だったのは昨日までの話か。

 そう、俺は今日から肩書きがアップグレードされるのだ。

 さようなら、無職の俺!

 と言いたいところだが、さよならするのはそっちの肩書きではなく……


「はぁ……こんにちは、30歳無職の俺……」


 というわけで、30代の人生がベッドの上で幕を開けた。

 ……ハズだったんだが……?


 おかしい。

 背中の感触が、どう考えても愛用する柔らかいマットレスのそれではない……。

 夜中にベッドから落ちたのだろうか?

 とも思ったが、フローリングというほど硬いわけでもないし、不思議な感触だ。

 まだ寝起きで冴えない頭で疑問を抱きつつも、少しずつ目を開けてみる。


 真っ白……これは所謂(いわゆる)”知らない天井”というやつか……。


 天井には照明すらついておらず、仰向けの状態で見ると完全な一枚の白い壁。

 いや、これは天井自体が発光して照明の役割を果たしているのか……?

 少し首を振って周りを見回すと、これまたなにもない真っ白な壁があった。   

 いや、”真っ白な壁しかなかった”という方が適切か。


「どこここ……?」


 今の発言、「こ」が75%を占めていてちょっとおもしろいな。


 昨日の夜、俺は確かに自室のベッドで眠りについたはず……。

 酔っぱらって前日の記憶を失くすなんて話はよく聞くが、俺はそもそも酒を飲まないし。

 眠りも深いほうではないし、誰かに連れ出されたなら起きて気づくと思うんだよな……。

 ということはまだ夢を見てるのか?

 そうでなければ納得できないほどおかしな状況だぞこれは。


カサッ


「うお」


 頭上で突然、布が擦れるような音がした。

 この部屋はあまりに静かで、近くに何かがいるとは思いもしなかったので心臓がこの上なくビックリしている。ごめんよ心臓。

 慌てて身体を起こし、そちらへ目を向けると……


 知らない女の子が座り込んでこちらを見ていた。


 年齢は自分より結構若そうで、20歳くらいか……?

 セミロングの茶色い髪は、ツヤツヤしていて手入れが行き届いている感じだ。

 まぁ女の子の髪質とかあんまり詳しくないんだけど。


 しかし誰だろう? この女の子が俺をこの部屋に運んできたのか? どうやって?

 いろんな疑問が一瞬で頭を駆け巡ったが、言葉を発するタイミングを失ってお互い見つめ合ったままのにらめっこが絶賛開催されている。

 彼女も何も言わないが、どうやら少し怯えているようにも見える。


 彼女がこの事態の元凶、つまり俺を連行してきた犯人なのだとしたら、連れてきた相手に怯えるというのも少々おかしな話ではある。

 ということはつまり、彼女も自分と同じ状況ということなのか……?


「えっと、君は誰なのかな……?」


 俺の推理が正しいのなら、お前こそ誰だよ? という気持ちだと思うが、それ以外に気の利いた切り出し方も見つからなかった。寝起きだし。


「わたしは……あの……目が覚めたらここにいて……」


 やっぱり。


 つまり彼女も被害者? という言葉が正しいのかはわからないが、この事態にわけもわからず巻き込まれたかわいそうな人間ということか。


 こんな状況で不謹慎ではあるんだが、彼女はなんともかわいそうな状況が似合うというか、怯える姿が子犬のようでかわいらしく、庇護欲(ひごよく)のようなものが湧いてくる感じがする。

 まぁ俺は紳士だから? 守ってあげたい気持ちになるけど、人によっては……

 と思ったところでハッとした。


 そうか、今の自分を客観的に見れば、俺は得体の知れないおじさんではないか。

 彼女からすれば突然襲い掛かってくるかもしれない恐怖の対象なのだ。

 もう長いこと他人とまともに関わっていない生活だったから、今の自分が他人からどう見られるのかを理解していなかったな……。


 ……おじさんかぁ。

 ふと今日から30歳という現実が押し寄せてきたが、それどころじゃないな今は。


 ここで一度、改めて周りを見回してみる。


 殺風景どころの話ではないぞこれは。

 床、壁、天井に至るまで、本当にただ真っ白なだけの四角い空間だ。

 広さは何十畳あるんだろうか? とにかく結構広い。

 ドアや窓も当然ないときたもんだ。

 何もないから、この子もただ座り込んで俺が起きるのを待つことしかできなかったんだろうな。


 つまり完全に逃げられない状況か。そりゃこの子も怯えるわなぁ……。

 しかし、俺より前に目が覚めたのなら、何かこの部屋を調べて情報を握っている可能性もあるか。


「えーっと、どれくらい前に目が覚めたの?」


「10分から……20分くらいだと思います……、時計がないからちゃんとした時間はわからないですけど……」


 彼女は明らかに年下ではあるのだが、初対面の相手に馴れ馴れしくタメ口で喋って大丈夫だっただろうか。

 でも次にいきなり敬語を使ったら情緒不安定なやつだなとか思われそうだしもうタメ口でいくしかないな。


「そっか、何かこの部屋について調べてみた?」


「一応、隅々まで見て回りました……。でも、本当に何もなくて...」


「そうかぁ……」


 別に彼女を信用していないというわけではないんだけど、ちゃんと自分でも部屋を調べてみるべきだろうな。

 何か小さな手掛かりでもいいから見つけて、まずは自分たちの置かれている状況を知りたいところだな……。


 寝起きの重い足を持ち上げて立ち上がり、振り返ろうとしたその時──


「うおっ! っとっとぉ……」


 どこかのスナック菓子のような声を発しながら、思いっきり(つまず)いてドタドタと足音を立てながら踊った。

 やばい、めっちゃ恥ずかしい。

 今の俺、だいぶ滑稽な動きだったと思うのでものすごーく恥ずかしいが、転倒しなかっただけ耐えたということにしてほしい……。


「だ、大丈夫ですっ……か……フ……クク……」


 うわぁ、思いっきり笑われてるじゃん。っていうかちょっとツボってない?

 いやわかるよ、人が転ける姿って可哀想だけど面白いんだよね、マヌケでさ。


「ご、ごめんなさい……フフ」


 そんなに面白かったのかなぁ……

 でもこのアクシデントのおかげでちょっとは緊張ほぐれたのかな。それならいいか、雨降って地固まるというやつだ。

 それにしても俺は一体何に引っかかって……?


「「あ」」


 彼女も同時に気付いたようだ。

 床に直径10cmくらいの丸い穴が空いている。

 位置的にはちょうど部屋の真ん中くらいか。

 多分俺が寝ていた場所で、起き上がるまで身体で隠れて見えなかったんだろう。


 覗いてみると、穴の下は真っ暗で何も見えない。

 試しに穴の下に向かって大声で叫んでみる。


「うぇーーーーーい!!!!!」


 ……どうしよう、絶対「おーい」のほうが良かったよな……。

 うぇーいなんて自分から最も遠い言葉なのにな......。

 こういうのって寝る前とかになって思い出して反省会するんだよなぁ......。


 声は反響せず、ただ吸い込まれていくような感じだ。

 この下は巨大な空間にでもなっているのか……?


 何か金属のようなものを落として底があるのか確認してみたいが、俺は何も持っていない。


「何か硬いものとか持ってない?」


「着てる服以外には何も……」


 使える小物はお互い何もなしか。

 俺が寝たときのままの部屋着ということは、彼女も寝た格好のままここへ連れてこられたのかな。

 俺は上下共にスウェットで、彼女も下はスウェットっぽいが、上には女の子にしか許されなさそうなモコモコした服を着ている。

 格好だけ見れば、今の俺たちはまるでお泊り会でもしているかのようだ。したことないからわからないけど。


 しかしこれで、この部屋が完全な密閉空間ではないということがわかって一安心だ。多分。


 部屋の広さはそこそこあるので、すぐに酸素不足や二酸化炭素過多になるとは思わないが、それでもいつ空気に苦しめられるかわからない状況はかなり怖いと思う。

 それに目覚めたのはついさっきだが、俺たちがここに来てからどれくらいの時間が経過しているかわからない。

 小さめの穴一つではあるが、これで空気の問題に直面する可能性はほぼなくなったんじゃないか?多分。

 とはいえ、この部屋に長時間閉じ込められるとするなら、水も必要になるかもしれないし、万事OKには程遠い状況だけど……。


 一旦、改めて今の状況を整理しつつ考えを巡らせてみる。


 俺たちをここに閉じ込めたヤツは、一体何が目的なんだろうか。

 不自然なほどに白い真四角の部屋に、床にポツンと空いた謎の穴。

 この部屋が明らかに人工物であることは間違いない。


 ……いや、あるいは”人”工物ではないとか……?


 そもそもこの部屋は監視されているのか?

 一見するとカメラなども見当たらないし、本当に何もかもわけのわからない状況だ。


 ただ、唯一救いがあるとすれば、やはり一人ではないということか。

 人間は何もない空間で長時間を一人で過ごすと、段々と気が狂ってきて我を失うと聞いたことがある。

 同じ状況の人間が隣にいるというのは想像以上に心強いものだ。それが子犬のように怯えた女の子であっても、だ。


 彼女がパニックを起こしてヒステリックになるような子だったら近くにいられてもマイナスが大きいのかもしれないが、彼女はこんな状況でも割と落ち着いているように見える。

 今も多少疑心暗鬼混じりな目でこちらを見てはいるけど……。


 脳みそが2つあればアイデアも多分2倍。多分。

 とにかく脱出の糸口も一人より掴みやすいと思う。

 となると、まずはこの子と打ち解けることから始めるか。


 うーん、女性経験の少なさがここにきて足を引っ張りそうだなぁ……。

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― 新着の感想 ―
こんにちは!僕ははこさんのファンです!! 小説を書いてるとリポストされていたので楽しみにしてました❗ はこさんはYouTube、イラストやアニメーション、漫画など色んなことに挑戦されていて尊敬してます…
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