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第6話 膝枕とマッサージの誘惑

 ある休日の午後。

 俺はソファでうたた寝をしていた。


 ふと、意識が浮上してくる。

 頭が、柔らかいものの上に乗っている。

 ……何だ、これ。

 枕じゃない。もっと温かくて、柔らかい。

 ふにふに、という感触。

 弾力があって、でも繊細で。

 肌の温もり。

 布越しに感じる、滑らかな肌。


 俺は目を閉じたまま、その感触を堪能した。

 なんだか、いい匂いがする。

 花のような、少し冷たい香り。


 ……待て。

 この感触、この匂い。

 まさか。


 目を開けると、クロハの顔が真上にあった。

 紫色の瞳が、俺を見下ろしている。

 銀髪が、俺の顔に垂れ下がっている。

 そして、クロハの胸の膨らみが、俺の真上にある。

 下から見上げる形で、控えめな曲線がはっきり見える。


「お、おおおお!?」


 俺は飛び起きようとした。

 だが、クロハの手が俺の頭を押さえた。


「動くな」

「いや、動かなきゃまずいって!」

「なぜだ。お前は疲れている。休め」

「休めないんだよ!」


 俺は必死で首だけ動かして、状況を確認した。


 俺の頭は、クロハの太ももの上に乗っていた。

 ワンピースの薄い布越しに、太ももの感触がはっきり分かる。

 すべすべで、柔らかくて、温かい。

 そして、太ももの内側が俺の耳に触れている。

 内側の肌は、さらに柔らかくて、繊細。


 俺の頭の両側を、クロハの太ももが挟んでいる形だ。


「な、なな、何してるんだクロハ!?」

「膝枕だ」

「なんで!?」

「お前が疲れていたようだから」

「いや、でも、膝枕って……!」

「人間の疲労回復には、リラックスが重要だと本で読んだ。膝枕はリラックス効果が高いらしい」

「そういう問題じゃなくて!」


 俺は頭を抱えた。

 いや、頭を抱えようとしたが、頭がクロハの太ももに押し付けられているから、うまく動かない。


 今の状況を整理しよう。

 俺は、クロハの膝の上で寝ていた。

 太ももの柔らかさを、頭で感じていた。

 あの細い足が、俺の頭を支えていた。


 そして今、俺の顔の両側には、クロハの白い太ももがある。

 視界の端に、太ももの曲線が見える。

 顔を動かすたびに、柔らかい肌が俺の頬を撫でる。


 幸せだ。

 でも、ダメだ。


「……鈴木」

「な、なんだ」

「お前の魂、すごく輝いているぞ」

「……」

「膝枕をすると、お前の魂が良くなるらしいな」


 違う。

 お前の太ももの感触に興奮してるから、輝いてるだけだ。


「嫌だったか?」

「いや、嫌じゃないけど……。いや、嫌じゃないっていうか……」

「嫌じゃないなら、続けていいか?」

「よくない! いいけど、よくない!」

「……よく分からない」


 クロハは首を傾げた。

 その動きで、太ももが俺の頬を撫でた。

 柔らかい。すべすべしている。


 純粋な目だ。本当に、何も分かっていない。


 俺は深呼吸した。

 落ち着け。平常心を保て。


「いいか、クロハ。膝枕っていうのは、恋人同士がやることなんだ」

「恋人?」

「そう。付き合ってる男女がやること」

「お前と私は、恋人ではないのか?」

「違う! 俺たちは、監視する側とされる側だ!」

「……そうか」


 クロハは少し残念そうな顔をした。

 眉が少し下がって、唇がほんの少しむくれている。

 普段は無表情なのに、こういう時だけ感情が出る。


 ……いや、なんで残念そうなんだ。


---


 さらに別の日。


 俺がパソコンで仕事をしていると、クロハが近づいてきた。


「鈴木」

「何だ?」

「肩が凝っているだろう」

「まあ、デスクワークだからな」

「揉んでやる」

「え?」


 言うが早いか、クロハは俺の後ろに回り込んだ。

 そして、小さな手が俺の肩に乗った。


「ちょ、クロハ!?」

「動くな。揉みにくい」


 クロハの手が、俺の肩を揉み始めた。

 ひんやりした手のひらが、凝り固まった筋肉をほぐしていく。

 ……気持ちいい。すごく気持ちいい。


 でも、それ以上に気になることがある。

 クロハの体が、俺の背中に密着している。

 胸が当たっている。

 控えめだが、確かにそこにある柔らかさ。


「っ……!」

「どうした。痛かったか?」

「い、いや、大丈夫……」

「もっと強くした方がいいか?」

「いや、そのままで……」


 俺は必死に平静を装った。

 でも、心臓はバクバクいっている。

 顔も熱い。


「人間の体は繊細だな。少し触っただけで、こんなに硬くなる」

「……」

「リラックスしろ。力が入っていると、効果が薄れる」

「無理だ……」


 クロハは不思議そうな顔をした。

 俺は全力で本能と戦っていた。


 すると、クロハが手を止めた。


「……ほう」

「な、なんだ」

「お前の魂、今、すごく輝いているな」

「……また、それか」

「私が肩を揉むと、お前の魂が良くなるらしい。私のマッサージは魂に効くようだ」


 違う。

 お前の胸が背中に当たってるから、俺がドキドキしてるだけだ。

 魂とか関係ない。


「ふむ。これからも定期的にマッサージしてやろう」

「いや、遠慮する……」

「なぜだ。お前の魂のためだ。拒否は許さない」

「……」


 俺は何も言い返せなかった。

 まさか「お前の胸の感触に興奮してるからやめてくれ」とは言えない。


 クロハは満足そうに頷いて、俺の肩を揉み続けた。

 俺の心臓は、ずっとバクバクいっていた。


---


【次回予告】

同居一ヶ月。俺の体は健康に。

「お前の魂も、少しずつ良くなってきている」

死神が語る、魂の価値とは——

「お前の魂は、私の宝だ」


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