第5話 俺のシャツを着た死神
だが、同居生活の問題はそれだけではなかった。
「なあクロハ、ちょっと俺、着替えるから……」
「構わない。見ていても?」
「見ないでくれ!」
「なぜだ。人間の体など、何度も見てきた」
「だから、その、生きてる人間と死んでる人間は違うんだよ!」
「……よく分からないが、分かった」
クロハは素直に向こうを向いてくれた。
だが、その後ろ姿を見ながら着替えるのも、妙にドキドキする。
ある日、逆の事態が起きた。
俺がトイレから出てきた時、クロハが着替えの最中だった。
「!?」
クロハは、ワンピースを脱いだところだった。
下着姿。
白いブラと、白いショーツ。
華奢な体が、目の前に晒されている。
細い腰、くびれたウエスト、白いお腹。
おへそが見える。小さくて、可愛らしいおへそ。
そして、白いブラに包まれた、控えめな胸の膨らみ。
白いショーツから伸びる、すらりとした足。
「あ……」
俺は固まった。
動けない。
目が、離せない。
「何だ」
クロハは、平然としている。
恥ずかしがる様子もなく、俺を見ている。
「ご、ごめん! 見てない!」
「見ているだろう」
「見てない! 絶対見てない!」
俺は慌てて後ろを向いた。
でも、もう遅い。
脳裏に焼き付いてしまった。
「……別に構わないが」
「構うんだよ!」
「なぜだ」
「なぜって……!」
俺は説明できなかった。
クロハには、恥じらいという概念がないのだろうか。
それとも、俺を男として見ていないのか。
……後者の方が傷つくな。
---
また別の日。
「鈴木、背中を流してやろうか」
「い、いらない! 自分で洗える!」
「人間は背中が届きにくいと聞いた。健康のために、しっかり洗った方がいい」
「大丈夫だから! というか、なんで風呂場に入ってくるんだよ!」
「監視任務だ」
「監視しすぎだろ!」
俺は風呂場の扉を全力で閉めた。
心臓が壊れそうだ。
過労死より、こっちで死ぬかもしれない。
---
ある日の夕方。
俺が仕事から帰ると、クロハが珍しく困った顔をしていた。
「どうした?」
「……服が」
「服?」
「濡れた」
見ると、クロハのワンピースがびしょ濡れだった。
どうやら、洗濯を試みて失敗したらしい。
「洗濯機の使い方、分からなかったのか?」
「……人間の機械は複雑だ」
クロハは少しむくれた顔をした。
頬を膨らませて、眉を寄せている。
普段は無表情なのに、こういう時だけ表情が出る。
可愛い。
失敗して困ってる顔が、めちゃくちゃ可愛い。
「まあ、初めてなら仕方ないか。とりあえず、俺の服貸すから着替えろ」
俺はタンスからTシャツとジャージのズボンを取り出して渡した。
クロハは黙ってそれを受け取り、着替え始めた。
……目の前で。
「ちょ、ちょっと待て!」
「何だ」
「着替えは向こうでやってくれ!」
「なぜだ。お前の前でも問題ない」
「俺に問題があるんだよ!」
俺は慌てて後ろを向いた。
だが、衣擦れの音が聞こえてくる。
布が肌を滑る音。
今、クロハは俺の背後で服を脱いでいる。
俺は頭の中で般若心経を唱えた。
「……終わった」
振り返ると、クロハが俺の服を着ていた。
……破壊力が、予想以上だった。
Tシャツはブカブカで、肩のあたりがずり落ちている。
片方の肩が完全に露出していて、白い鎖骨が丸見え。
首元も大きく開いていて、胸の谷間の始まりがちらりと見える。
そして、Tシャツの裾が長すぎて、太ももの半分まで隠れている。
まるでワンピースのように見える。
いや、ワンピースよりも破壊力がある。
だって、下が見えそうで見えないから。
クロハが少し動くたびに、Tシャツの裾が揺れる。
白い太ももがちらりと見える。
そして、ジャージのズボンは腰で止まっていて、お腹がちらりと見える。
「彼女が俺のシャツだけ着てる」シチュエーション。
これは、犯罪的な破壊力だ。
「……」
「どうした」
「いや……」
かわいい。
めちゃくちゃかわいい。
というか、エロい。
可愛いとエロいが共存している。
「サイズが合わないな」
クロハは不満そうに言いながら、Tシャツの裾を引っ張った。
その動きで、胸元がさらに開いて、鎖骨から胸の谷間まではっきり見えた。
「っ!」
「どうした。変な声を出すな」
「い、いや、そのままでいいよ。似合ってる」
「……そうか」
クロハは少し照れたように目を逸らした。
耳が赤い。
頬も少しピンク色になっている。
そして、恥ずかしそうに、Tシャツの裾を握りしめている。
その仕草が、めちゃくちゃ可愛い。
「……鈴木」
「な、なんだ」
「お前の魂、今すごく輝いているぞ」
「……」
「私の服を着替える姿を見ると、お前の魂が良くなるらしいな」
違う。
俺のTシャツを着たお前の姿を見て、興奮してるだけだ。
「……これからも、お前の服を借りた方がいいかもしれないな」
「それは……」
俺は何も言えなかった。
正直、嬉しい。
だけど、俺の理性が持たない。
……いかん。
このままでは、俺は過労死の前に別の理由で死ぬ。
---
【次回予告】
「膝枕だ」「耳かきをしてやる」
クロハの太ももの感触に、俺の魂は輝きまくり——
「お前の魂のためだ。拒否は許さない」
【作者からのお願い】
もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!
また、☆で評価していただければ大変うれしいです。
皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!




