表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/8

第4話 添い寝と魂の輝き

 さらに問題は続いた。


 ある夜、俺がベッドに入ろうとすると、クロハがいた。

 俺のベッドに。

 布団をかぶって、目を閉じている。


「ちょ、クロハ!?」

「何だ」

「なんで俺のベッドにいるんだよ!」

「監視任務だ。離れるわけにはいかない」

「いや、ソファで寝てくれよ!」

「寝心地が悪い。人間の体に近い状態で顕現しているから、睡眠の質にも影響する」

「じゃあ俺がソファで……」

「だめだ。お前の睡眠の質が下がる。健康管理に支障が出る」

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「一緒に寝ればいい」


 クロハは当然のように言った。


「……は?」

「このベッドは一人用だが、私は体が小さい。詰めれば入る」

「いやいやいや、無理だろ!」

「何が無理なのか分からない」


 クロハは本気で分かっていない顔をしている。

 死神には、人間の羞恥心という概念がないのか。


 そして、よく見ると――


 クロハの格好が、ワンピースじゃない。

 薄いキャミソールのようなものを着ている。

 肩紐が細くて、肩が完全に露出している。

 胸元も大きく開いていて、控えめな膨らみの谷間がちらりと見える。

 丈も短くて、太ももがほとんど露出している。


「な、なな、何を着てるんだ!?」

「寝巻きだ」

「露出しすぎだろ!」

「暑いからな」

「いや、でも……!」


 俺は言葉を失った。

 クロハの体のラインが、キャミソール越しにはっきり見える。


 細い腰。くびれたウエスト。

 控えめだが形の良い胸の膨らみ。

 すらりと伸びた足。太ももの白い肌。

 

 キャミソールの生地は薄くて、下に何も着ていないのが透けて見える。

 胸の先端が、うっすらと浮き出ている。


 ――やばい。やばい。やばい。


「い、いいか、クロハ。俺は三十四歳の男だ。お前は見た目十代後半の女の子だ。一緒のベッドで寝るのは、倫理的に問題がある」

「倫理?」

「そう、倫理だ。男と女が同じベッドで寝るのは、その、いろいろとまずいんだ」

「……いろいろとは?」


 クロハが首を傾げる。

 その動きで、キャミソールの肩紐が少しずり落ちた。

 白い肩が、さらに露出する。


 純粋な目だ。本当に分かっていない。


「と、とにかく! 今日は俺がソファで寝る!」

「だから、お前の睡眠の質が……」

「いいんだ! 俺の精神衛生の方が問題なんだ!」


 俺はソファに逃げ込んだ。

 脈がどくんどくんと鳴っている。

 過労死しかけた時より、心拍数が上がっている気がする。


 すると、クロハが不思議そうな顔で俺を見つめてきた。


「……鈴木」

「な、なんだ」

「お前の魂、今、すごく輝いている」

「は?」

「私には見える。人間の魂の輝き。今、お前の魂は、いつもより格段に明るく輝いている」


 クロハは感心したように頷いた。


「そうか。お前、私と一緒にいると、魂の質が上がるみたいだな」

「いや、それは違う……」

「何が違うのだ。事実、お前の魂は輝いている。経験を積む時、魂は輝く。つまり、お前は今、良い経験をしているということだ」


 良い経験?

 俺がしているのは、キャミソール姿のクロハを見てドキドキしているだけなんだが。


 ……それを「良い経験」と言っていいのだろうか。


「私と一緒にいると、お前の魂はどんどん良くなる。これは良い傾向だ」

「いや、あの、クロハ……」

「何だ」

「その輝きは、多分、お前が思ってるのとは違う理由で……」

「違う理由? 分からない。とにかく、お前の魂が輝いているのは良いことだ」


 クロハは満足そうに頷いて、ベッドに戻っていった。


 ……俺は何も言えなかった。

 まさか「お前の姿を見て興奮してるから輝いてるんだ」とは言えない。

 死神にそんなこと言ったら、どうなるか分からない。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は眠れない夜を過ごした。


---


 翌日から、寝室問題は一応解決した。

 クロハにはソファベッドを用意し、そこで寝てもらうことにした。


 しかし、問題は別にあった。


 毎朝、目覚めると――


「……ん」


 俺は違和感で目を覚ました。

 体が重い。何かが乗っている。

 温かい。そして、柔らかい。


 目を開けると、クロハがいた。

 俺の体の上に、乗っていた。


「!?」


 俺は飛び起きようとしたが、クロハの体重で動けない。

 いや、軽いはずだ。羽みたいに軽いはずだ。

 でも、動けない。

 正確には、動きたくない。

 この状況から抜け出したくない自分がいる。


 ……いや、何を考えてるんだ。


 クロハは俺の上で、すやすやと眠っている。

 キャミソール姿のまま。

 肩紐がずり落ちて、白い肩が完全に露出している。

 胸元が大きく開いていて、控えめな膨らみが押し付けられている。

 俺の胸に、クロハの胸が密着している。


 柔らかい。

 すごく、柔らかい。

 控えめなはずなのに、確かに感じる弾力。


 そして、クロハの顔が俺の首元に埋まっている。

 吐息が首筋にかかって、くすぐったい。

 銀髪が俺の顔にかかっている。

 いい匂いがする。花のような、でも少し冷たい、不思議な香り。


「……く、クロハ」

「……ん」

「起きろ。なんで俺の上で寝てるんだ」

「……温かいから」


 クロハは眠そうな目を開けた。

 紫色の瞳が、ぼんやりと俺を見ている。

 まつ毛が長くて、目元がキラキラしている。

 寝起きの無防備な表情。

 いつもの無表情とは違う、幼い感じ。


 可愛い。

 反則的に可愛い。


「そういう問題じゃなくて……!」


 クロハはもぞもぞと動いた。

 その動きで、体が俺の上で擦れる。

 胸が、俺の胸の上を滑る。


「っ……!」


 俺は理性を総動員した。

 今、俺の体は危険な状態だ。


「お前、毎朝こうなのか?」

「寒いと、お前のところに移動してしまうらしい」

「らしいって……。自覚がないのか」

「無意識だから、仕方ない」

「仕方なくないだろ!」


 クロハは首を傾げた。


「……鈴木」

「な、なんだ」

「お前の魂、今すごく輝いているぞ」

「……朝から、それか」

「私と一緒に眠ると、お前の魂が良くなるらしいな。これからも毎晩、一緒に寝た方がいいかもしれない」

「絶対やめてくれ!」


 俺の叫びは、聞き入れられなかった。

 こうして、俺の朝は毎日、心臓と理性に悪い目覚めから始まることになった。


---


【次回予告】

着替えを目撃。俺のシャツを着るクロハ。

「お前の服を借りた方がいいかもしれないな」

その破壊力に、俺の理性は崩壊寸前——


【作者からのお願い】

もし、「おもしろい」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマーク登録をしていただけるとうれしいです。また「いいね」や感想もお待ちしています!

また、☆で評価していただければ大変うれしいです。

皆様の応援を励みにして頑張りますので、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ