第18話 お前の魂は、私のものだ
クロハの目に、涙が浮かんだ。
紫色の瞳から、透明な雫がこぼれ落ちた。
月明かりに照らされて、ダイヤモンドのように輝いた。
「……お前は、馬鹿だ」
クロハの声が震えていた。
「私は死神だ。永遠を生きる存在だ。お前は人間だ。いつか死ぬ存在だ。そんな私を好きになって、何の意味がある」
「意味なんてなくてもいい。俺はお前が好きなんだ」
「お前が死んだ後、私は永遠にお前を失うんだぞ。それでもいいのか」
「俺が死ぬまでの時間を、全部お前にやる。それじゃダメか」
クロハは俯いた。
涙が、頬を伝って落ちていく。
銀色の髪が、顔を隠している。
「……馬鹿な人間だ」
「自覚はある」
「私は死神だ。いつかお前を迎えに来る」
「その時まで、一緒にいてくれ」
俺はクロハの顎に手を添えて、顔を上げさせた。
涙で濡れた顔。
泣いている顔。
でも、今まで見た中で、一番美しい顔。
「クロハ。俺と一緒にいてくれ」
クロハは泣きながら、俺の胸に飛び込んできた。
小さな体が、俺の腕の中で震えていた。
「……お前の魂は、私のものだぞ」
「え?」
「最初から、そう決まっていた。お前の魂は、私が回収する。だから……」
クロハは顔を上げた。
涙で濡れた紫色の瞳が、俺を見つめている。
その目には、三千年分の孤独と、俺と過ごした半年の温もりと、そしてこれからの決意が詰まっていた。
「だから、長生きしろ。たくさん経験を積んで、豊かな魂になれ。私がもらうまで、なるべく長く待ちたい」
「……」
「八十二歳まで、いや、百歳まで生きろ。そうすれば、お前の魂はもっと価値が上がる。私だけのものになる最高の魂に」
「……なんか、プロポーズなのか脅しなのか分からないな」
「両方だ」
クロハは、涙を流しながら笑った。
泣き笑い。
初めて見る表情だった。
「……分かった」
「え?」
「上に掛け合ってみる。監視任務の延長という形で、お前の傍にいられるかもしれない」
「本当か!?」
俺の心臓が跳ね上がった。
希望が、胸の中に広がっていく。
「ただし、条件がある」
クロハは顔を上げ、俺を真っ直ぐ見つめた。
涙は止まっていたが、目はまだ濡れていた。
月明かりを反射して、宝石のように輝いていた。
「お前は、一生健康でいろ。そうすれば、私が迎えに来るのは、ずっと先になる」
「……ああ、約束する」
「それから」
クロハは俺の胸に顔を埋めた。
小さな声で、囁くように言った。
「私の名前を、毎日呼べ。朝も夜も、死ぬまでだ」
「……分かった、クロハ」
俺はクロハを抱きしめた。
冷たかった体が、少しだけ温かく感じた。
いや、違う。クロハの体が、本当に温まっていた。
人間らしい温もりが、クロハの中に芽生えていた。
「クロハ」
「何だ」
「愛してる」
クロハは顔を上げた。
涙で濡れた頬が、月明かりに照らされて輝いている。
「……私も」
俺たちは、唇を重ねた。
初めてのキス。
冷たい唇だと思った。
でも、すぐに温まった。
俺の温もりが移ったのか、クロハの感情が温めたのか。
どっちでもよかった。
長いキスだった。
月が見守る中、俺たちは何度も唇を重ねた。
離れては繋がり、繋がっては離れ。
まるで、これまでの半年を確かめ合うように。
これからの永遠を約束するように。
やがて、唇が離れた。
二人とも、息が上がっていた。
顔が熱い。心臓がうるさい。
「……誠一」
「何だ」
「お前の魂、今、すごく輝いているぞ」
俺は笑った。
クロハも笑った。
二人で笑い合った。
この「魂の輝き」が何だったのか、クロハはまだ分かっていないのかもしれない。
でも、今夜だけは、本当に魂が輝いている気がした。
愛する人と一緒にいるから。
これからも、一緒にいられるから。
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【次回予告】
それから一年——
俺とクロハは、相変わらず一緒に暮らしている。
「今日は何を作る?」「お前のリクエストを聞こう」
二人の日常は、静かに、穏やかに続いていく。
「養殖ではない。愛情だ」
【作者からのお願い】
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