第13話 人間らしくなりたい
さらに別の日。
俺が仕事から帰ると、クロハがソファで眠っていた。
いつものワンピースではなく、俺のTシャツだけを着ていた。
「……っ!」
俺は固まった。
クロハは、俺のTシャツだけを着て寝ている。
つまり、下は何も着ていない……可能性がある。
Tシャツの裾から、白い太ももが伸びている。
すらりとした足が、ソファに投げ出されている。
そして、寝返りを打ったせいか、Tシャツが捲れ上がっている。
太もも。
白くて、すべすべしていそうな太もも。
太ももの付け根まで、見えそうで見えない。
俺は息を呑んだ。
これは、まずい。
見てはいけない。
俺は三十四歳の大人だ。
寝ている女の子の太ももをジロジロ見るのは、犯罪だ。
クロハがまた寝返りを打った。
その動きで、Tシャツがさらに捲れ上がった。
白いショーツが見えた。
「っ……!」
俺は慌てて目を閉じた。
見てない。俺は何も見ていない。
見たとしても、それは事故だ。故意ではない。
……嘘だ。ちょっと嬉しかった。多分、ガン見していた。
「……ん……」
クロハが目を覚ました。
眠そうな紫色の瞳が、俺を見つめる。
「……帰ったか」
「あ、ああ……」
「どうした。顔が赤いぞ」
「い、いや、なんでもない……」
クロハは首を傾げた。
その動きで、Tシャツがまたずれて、肩が露出した。
白い肩。細い鎖骨。
「お前の魂、すごく輝いているな」
「……」
「私の寝顔を見ると、魂が良くなるらしいな」
違う。
お前のショーツを見て興奮してたから輝いてるだけだ。
俺は天を仰いだ。
この同居生活、本当に心臓に悪い。
過労死より先に、別の原因で死にそうだ。
---
同居生活も四ヶ月が過ぎ、季節が少し変わり始めた頃。
ある日の夜、俺が風呂上がりにリビングに戻ると、クロハがいつもと違う服を着ていた。
「……クロハ?」
「どうだ」
クロハが振り返った。
黒いローブでも、いつものワンピースでもない。
白いブラウスに、紺のスカート。
どこから調達したのか分からないが、まるで女子高生のような恰好だ。
「……っ!」
俺は言葉を失った。
かわいい。
今まで見た中で、一番かわいい。
「人間の服を着てみたかった」
「ど、どこから……」
「お前がいない間に、百貨店で見繕ってきた。私は他の人間には見えないから、持っていっても問題ない」
「いや、それ窃盗だろ!」
「金は置いてきた」
「……ならいいけど」
クロハはくるりと回った。
スカートがふわりと広がる。
白い太ももがちらりと見えた。
「っ……!」
「似合っているか?」
「に、似合ってる……」
「そうか」
クロハは少し嬉しそうに笑った。
その笑顔が眩しすぎて、俺は直視できなかった。
「お前を真似したかった」
「俺を?」
「お前の生活を見ていると、人間になってみたくなる。だから、人間の服を着てみた」
「……そうか」
クロハは俺に近づいてきた。
「どうだ。人間に見えるか?」
「見える。すごく、見える」
「そうか」
クロハは満足そうに頷いた。
そして、俺の手を取った。
「鈴木。お前との生活は、楽しい」
「……俺も、楽しいよ」
「そうか」
クロハの耳が赤くなった。
俺の心臓が、また跳ね上がった。
---
それから、俺とクロハは色々なことを一緒にするようになった。
休日の午後。
俺たちは一緒に掃除をしていた。
クロハは掃除機をかけ、俺は拭き掃除。
クロハは真剣な顔で掃除機をかけている。
エプロン姿が、妙に似合っていた。
銀髪を後ろで束ねていて、うなじが見える。
……掃除してる姿も可愛いな。
「何を見ている」
「い、いや、何も……」
「お前の魂、今輝いているぞ」
「……」
俺は黙って拭き掃除を続けた。
---
別の休日。
俺たちは一緒に買い物に行った。
帰ってきて、一緒に料理を作った。
俺が野菜を切り、クロハが鍋をかき混ぜる。
並んでキッチンに立つ。
クロハが火を調整しようとして、コンロのボタンを間違えた。
火が強くなった。
「わっ!」
「クロハ!」
俺は慌ててクロハを引き寄せた。
すぐに火を消した。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だ。……ありがとう」
クロハは俺の腕の中にいた。
小さな体が、俺に抱かれている。
「……」
「……」
俺たちは、しばらくそのままだった。
クロハの体が温かい。
いい匂いがする。
「……鈴木」
「な、なんだ」
「……もう少し、このままでいいか」
「え? あ、ああ……」
俺はクロハを抱きしめ続けた。
全身の血が騒いでいる。
でも、離したくなかった。
……カレーが焦げた。
---
【次回予告】
「背中を流してくれ」「髪だけでも洗ってくれ」
シャンプーする指先に、クロハが声を漏らす——
「……気持ちいい」「……ん……」
そして、月夜の告白。
「お前も、いつか死ぬということが」
「お前のことは、忘れたくない。……それが、怖い」
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