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第11話 三千年目の涙

大変光栄なことに、素敵なレビューを頂戴しました!ありがとうございます!

本当に嬉しいです!皆様、ご愛読、本当にありがとうございます!

 さらに日が経ち、俺の誕生日がやってきた。


 三十五歳。

 去年の誕生日は、会社で残業していた。

 ケーキもなければ、祝ってくれる人もいなかった。


 でも、今年は違った。


「……鈴木」


 仕事から帰ると、クロハが居間で待っていた。

 テーブルの上に、何かが置いてある。


「これは……」


 ケーキだった。

 不格好な、手作りのケーキ。

 クリームが斜めになっていて、イチゴがバラバラに乗っている。

 ロウソクが一本だけ立っている。


「……作った」


 クロハは照れくさそうに目を逸らした。

 耳が真っ赤だ。


「お前の誕生日だと聞いた。人間は誕生日にケーキを食べるらしい」


 俺は言葉を失った。

 死神が、俺のためにケーキを作ってくれた。

 三千歳の存在が、人間の誕生日を祝ってくれた。


「……ありがとう、クロハ」

「礼は要らない。これも任務の一環だ」

「任務?」

「誕生日を祝うと、人間は幸せになる。幸せになると、魂が輝く。つまり、これはお前の魂を良くするための……」


 クロハの声が、途中で止まった。

 俺は、クロハの顔を見つめた。


 ……泣いていた。


 紫色の瞳から、涙がこぼれ落ちていた。

 透明な雫が、白い頬を伝って落ちていく。


「クロハ……?」

「……分からない」


 クロハは、自分の頬を触った。

 涙がついた指を、不思議そうに見つめている。


「……何だ、これは。目から水が出ている」

「それは涙だ。人間が悲しい時や、嬉しい時に出る」

「知っている。だが、私は死神だ。涙など出ないはずだ」


 でも、涙は止まらなかった。

 ぽたぽたと、次から次へとこぼれ落ちていく。


「……分からない。お前と一緒にいるようになってから、こうなった」


 クロハは、俺を見上げた。

 涙で濡れた紫色の瞳が、俺を捉えている。


「お前が一歳、年を取った。それは嬉しい。お前の寿命が一年分、延びたということだ」


 クロハの声が震えている。


「でも、同時に……お前の残り時間が一年分、減ったということでもある」

「……」

「私は三千年生きてきた。人間の一生など、一瞬だ。でも……」


 クロハは、俺の手を握った。


「お前の一瞬は、私にとって永遠より大切だ」


 俺は、クロハを抱きしめた。

 小さな体が、俺の腕の中で震えていた。


「……泣くな、クロハ」

「泣いていない。これは……目から水が出ているだけだ」

「それを泣くって言うんだよ」

「知っている。だが、認めたくない。死神が泣くなど……」


 俺はクロハの頭を撫でた。

 銀髪がサラサラと指の間を滑る。


「いいんだ。泣いても」

「……」

「俺も、お前に会えて嬉しい。過労死しかけて良かったと思ってる。お前に会えたから」


 クロハは顔を上げた。

 涙で濡れた顔が、少し怒っているように見える。


「不謹慎だ。過労死しかけて良かったとは何だ」

「でも、本当のことだ」

「……馬鹿」


 クロハはそう言いながら、俺の胸に顔を埋めた。

 小さな嗚咽が聞こえた。


 三千年生きてきた死神が、俺のために泣いている。

 人間らしい感情を、初めて覚えている。


 俺は、そっとクロハを抱きしめ続けた。

 この瞬間を、ずっと覚えていようと思った。


---


 その日の夜。

 俺たちは一緒にケーキを食べた。


 不格好だったけど、味は悪くなかった。

 クリームは甘すぎず、スポンジはふわふわだった。


「……美味い」

「当然だ」


 クロハは、まだ少し目が赤かった。

 でも、いつもの無表情に戻っている。


「来年も、作ってやる」

「……楽しみにしてる」

「再来年も、その次の年も。お前が百歳になるまで、毎年作ってやる」

「百歳か……。遠いな」

「遠くない。私にとっては、一瞬だ」


 クロハは、俺を見つめた。


「だから、長生きしろ。私に、たくさんケーキを作らせろ」

「……分かった。約束する」


 俺は、クロハの頭を撫でた。

 クロハの耳が、少し赤くなった。


 ……今年の誕生日は、今までで一番幸せだ。


---


【次回予告】

同居生活のドキドキは、日に日にエスカレート——

「今日は寒い。一緒に寝る」

「お前の体温が欲しい」

俺の理性は、もう限界だ。


【作者からのお願い】

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