ゆいこのトライアングルレッスンB 〜焦げたクロワッサン〜
フウセンカズラ編の続きではありませんので、これだけでも読めます。こちらも長編を削りに削ったショートストーリーです。
式場の中央に、やわらかなピアノの音が流れる。
ゲストが見守る中、スタッフがそっと運んできたのは、純白のウェディングケーキではなく、焼きたてのように香ばしいクロワッサンタワーだった。
艶やかに焼き色がついたクロワッサンが何層にも積み重なり、ところどころにフレッシュなベリーとミントが彩りを添える。
プレートには、小さくやさしい文字で「Happy Wedding」。
ふわっと笑みをこぼした新婦・ゆいこが、隣のたくみにそっと目をやる。
「……これ、もしかして」
「うん。あのときと同じレシピで焼いた。覚えてる? 去年のバースデー・クロワッサンタワー」
去年のゆいこの誕生日。
「サクサクのクロワッサンをお腹いっぱい食べたい」――そんな、ゆいこの何気ない願いを叶えるために始まった、無謀な挑戦だった。
ひろしにも手伝ってもらいながら、素人の男2人が生地から手作りしたクロワッサン。
だけど、焼き上がったのはクロワッサンとは名ばかりの不恰好なものばかりで、いくつかは焦げて、タワーは見るからに斜めに傾き、主役のゆいこがてっぺんの1つを取った瞬間、盛大に崩れ落ちた。
「今日は焦げてない……しかも、ちゃんと真っ直ぐ立ってる」
「今日までに5回は試作したからな。ひろしにも、びっくりするくらいダメ出しされた。あいつ几帳面なんだよなぁ」
たくみがちらりと友人席に目をやると、ひろしが静かに頷いていた。
グラスを軽く掲げて、いたずらっぽく口元だけ笑う。言葉にしなくても、伝わってくるその視線に、たくみも小さく笑い返した。
ゆいこは、そんな2人を見て、くすっと笑う。
そして、ケーキ入刀ならぬ、「クロワッサンタワーの“初摘み」を行った。
てっぺんのクロワッサンを取り、一口ずつ分け合う。
「今度は崩れないね」
「だろ?」
サクッという音とともに、あの日の記憶がふわりとよみがえる。
崩れて、笑って、焦げた部分は少し苦かったけど、それでも美味しかった、あのクロワッサン。
その思い出が、今日、新しい形でふたりを結び直した。




