おっさんよ、神話になれ
王都・深夜。
アリスはひとり、王宮中庭の小道を歩いていた。
「……おじちゃん、最近ノワールさんとばっかり……」
寂しげに下を向いた、その瞬間。
──カシャ。
背後の空間が“裂けた”。
「……っ!」
アリスの体が浮く。透明な触手のような魔力の網に絡め取られる。
「動かないことをおすすめします。聖巫女候補は、なるべく無傷で搬送したいので」
漆黒の仮面をつけた、異様に細身の暗殺者。目は人間とは思えない光を放っていた。
「離して……おじちゃ──っ!」
その叫びに、反応する声があった。
「……俺の家族に、手ぇ出してんじゃねぇよ」
ズン──!!
次の瞬間、空間ごと“割れた”。
真夜中の空に、金と蒼の光が“創られる”。
──孝一がいた。
***
「へぇ……これが、あんたのチート能力ってやつか」
仮面の男は不敵に笑いながら手を構える。
「“創生魔法”、その解析と再現のために、巫女を頂こうと思ったが……予定変更だ」
刹那、殺気。
仮面の男の背後から、十数本の“闇の刃”が展開され、孝一に向けて発射される。
「アリスは返してもらう!」
孝一が叫び、右手を振る。
その瞬間、空間が「書き換えられた」。
バリバリッッッッ!!!
まるで刃が“生まれる前”に戻されたように、影の魔法が蒸発する。
(あれは……創生じゃない……)
アリスは目を見開いた。
──孝一の背中から放たれる魔力は、命の“上位”にある概念そのもの。
「……創生式・神代発展術式、第零番──“始原の記述”」
孝一の足元に、淡い白金の紋章が浮かぶ。
「無から、有を記す。存在を、構成する基礎を作り直す……これが、俺の新しい力だ」
──創生から、創造へ。
神の記述領域に踏み込む、絶対的な“創造力”。
仮面の男が怯んだ瞬間、孝一は飛び込む。
拳に力をこめ、魔力を“凝縮”させる。
「さっさと消えろ。お前にこの世界は、記す価値もない!!」
ドゴォッッ!!
次の瞬間、王宮の壁ごと吹き飛ばされて仮面の男は消えた。
(完全には倒せなかったが……データは取らせなかった)
孝一は息を吐き、地面に降りる。
震えるアリスをそっと抱きしめた。
「怖かったな……もう、大丈夫だ」
アリスはぼろぼろと涙をこぼす。
「おじちゃん……ありがとう……ありがとう……!」
その様子を、建物の影からノワールが静かに見ていた。
唇をきゅっと噛み、呟く。
「……勝てません。あの感情には、今の私じゃ」
だがその瞳には、ほんのり熱が宿っていた。
(でも、想いを伝えることは、やめません)
***
数時間後、騒ぎも収まり、ミルフィリアが大浴場で暴れていた。
「またそなた! そなたばかりヒロインと抱き合って! ちゅーしそうになって!」
「いや、してないって言ってんだろ!?」
「ノワールに先越されて我は満足できぬ! ……キスイベント早く用意せよ!!」
「なんでイベント管理者みたいなこと言ってんだよ王女様!!」
その横で、レミィがぼそっと呟いた。
「……でも、今の孝一さん、ほんとに英雄っぽくなってきたね」
レオナも、口元に微笑を浮かべる。
「だけど、あいつの“静かに生きたい”って夢、ますます遠ざかったな」
ヒロインたちがそれぞれに思いを抱くなか、王都の空に、まだ誰も気づかぬ“黒い影”が広がっていた――。
面白いと思っていただけましたら、
感想、高評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします!
ブックマ登録しってっね♪
ブックマ登録しってっね♪
テイッ!