第9話:“アイテム効果2倍”の衝撃
静まり返った処刑場跡に、かすかな風の音だけが残っていた。
黒焦げになった地面、爆風で転がった兵士たち。もはや反撃の意思すら見せないその姿を、
オルテガは見下ろしていた。
「……一滴も魔力を使っていない。なのに、これか」
彼は腰に下げた道具袋に視線を落とす。中身は変わっていないはずだ。だが、“性能”がまるで違っていた。
――いや、正確には、《引き出す力》が変わっていた。
アイテム士の基本スキル、《使用》は、本来は定められた効果を“正確に”発動させるためのものだった。
だが今の彼には、それ以上の情報が流れ込んできている。
例えば、閃光石。
本来なら目くらまし程度の効果しかないが、彼が手にした瞬間――
【効果強化:閃光石】
通常の2倍の照度。視覚遮断効果:10秒 → 20秒
付随効果:発熱性、爆風範囲拡大
「ふむ……効果が“倍加”している、ということか」
道具の中身を理解する知性と、即応する技術。それらが、彼の中で一気に噛み合った。
新たなスキル《アイテム効果二倍》。
これは単なる補助能力ではない。既存の道具の枠組みを超え、効果の“限界値”を引き上げる
――言い換えれば、《道具を魔法に変える力》だ。
そこには、かつての“荷物持ち”の影はなかった。
夜の森を抜ける途中、彼はふと立ち止まり、道具袋の中から古びた保存食を取り出した。干し肉と硬いパン――栄養はあるが、味気ないものだ。
ひと口かじった瞬間、スキルが発動した。
【効果強化:保存食】
回復量:2倍
腐敗耐性:強化
効果時間:30分 → 60分
一時的スタミナ上昇:+15%
「……ふむ。これは便利だ」
地味だが、確実に“生存力”が上がっている。
オルテガは微笑み、呟いた。
「アイテムとは、命を繋ぐ知恵の結晶。人の歴史そのものだ。……ならば」
“アイテム士”という職業に、誰もが軽んじたその名前に――今、革命が始まる。
「この力で、道具の価値を証明しよう。“進化”は、ここからだ」
冷たい夜風が、焚き火のように揺れる彼の心を包み込んでいた。