第6話:再生の火が灯る村
朝。ナジアの空に、ようやく雲間から太陽が差した。
オルテガは、集会所の床板を一枚ずつ点検しながら、腐った部分を切り出し、
乾いた梁を組み直していた。隣ではエルダが火花を散らして、古釘を打ち直している。
「ここ、床の支えが甘いな。丸太をもう一本、横に通したほうがいい」
「了解。……にしても、あんた、意外と大工仕事もできるんだな?」
「道具があれば何でもできる。……いや、道具こそが“できる”の本質だ。人は道具とともに進化してきた」
そう語る彼の目は、まるで学者のように知的で、しかしどこか夢見がちだった。
「ふふっ、また始まった。“アイテム士の持論講座”」
「ふむ、聞きたくないなら聞かなくても――」
「いや、聞くけどさ。面白いし」
エルダが笑い、オルテガもつられて微笑んだ。
かつて廃村と呼ばれたナジア。だが今、この小さな場所には確かな熱があった。道具の音が鳴り、炊事の湯気が上がり、時おり鳥の鳴き声に混じって笑い声すら響く。
昼、二人は一息ついて、村の井戸の縁に腰を下ろした。
「……ねぇ、オルテガ」
「ふむ?」
「思ったよりも楽しいかも。こういうの、なんていうか……“手ごたえ”があるって感じ?」
「わかるとも。地道な作業の積み重ねが、確実に未来につながる。それが“再生”というやつだ」
「……うん。あたしも、壊れたもんを直すの、嫌いじゃないからさ」
風が吹いた。古びた風見鶏が、キー……と音を立てて回る。
それはまるで、眠っていた村が目を覚まし、彼らの言葉に耳を傾けているようだった。
その日の夜、ふたりは集会所に小さなランプを灯した。
天井の一部には布を張り、風除けの板も付けた。破れた壁には野花を活けた小瓶を飾った。どれも大したものではない。けれど、確かに“居場所”としての姿が見えてきていた。
エルダが木の器に盛られた野菜粥を差し出すと、オルテガはそれを静かに受け取った。
「エルダ。君が来てくれて、本当に良かった」
「な、なに急に。……ま、あたしも悪くないって思ってるけどさ」
「ふむ。では、今日の作業報告をまとめるとしよう」
「はいはい、アイテム士は“記録魔”だもんね」
彼の手帳にカリカリと記録が刻まれ、エルダはそれを横目に、眠気を誘う火を見つめていた。
外は静かで、星がまたたいていた。
滅びた村。忘れられた場所。
けれど今は確かに、小さな炎が――再生の火が、灯っていた。