第5話:アイテム職人の契り
焚き火の明かりに照らされながら、オルテガとエルダは向かい合って座っていた。
ナジア村の集会所跡、いまだ天井は崩れ落ち、壁は剥がれ落ちていたが、今夜は妙に温もりがあった。人がいるだけで、廃墟も少しだけ息を吹き返す。
「にしてもさぁ、あんた、よくこんな場所に住んでるよね」
エルダはスープの入った鍋をかき回しながら、眉をしかめた。
「まぁ、他に居場所もないし……ここなら誰にも追放されないからね」
オルテガは薪をくべながら淡々と答えた。
「はー……やっぱちょっとズレてるよ、あんた。でも、そこが嫌いじゃないんだよな」
エルダは鍋をオルテガに差し出す。中身は野草と干し肉のスープ。調味料は少ないが、妙に温かい。
「でさ、これからどうするの? 本気でこの村、直すつもり?」
「本気も何も……もう僕には、ここしかない」
オルテガは湯気の立つ木椀を見つめながら、静かに続けた。
「ここを、僕の“拠点”にする。道具も人も、再生できる場所に。……きみも、協力してくれるかい?」
しばらくの沈黙のあと、エルダは鍋を火から下ろし、腰の道具袋から一枚の古びた金属板を取り出した。
「これ、あたしの家に伝わってた“誓いのプレート”。鍛冶屋として、本気で仕事する時の証だよ」
エルダはそれを火の中に投げ入れると、再び取り出し、炭で黒ずんだ表面に指で何かをなぞった。
「“オルテガと共に、再生の火を灯す”……って書いた。読みづらいけどな」
「ふむ……職人流の契約というわけか。気に入った」
オルテガは荷物袋から自作のスチール製スタンプを取り出し、小さな“アイテム士”の紋をプレートの端に刻印する。
音が、ひとつ、静かに響いた。
「これで、お互い本気ってことでいいな」
「もちろんだとも。君の腕と、僕の知識があれば――村ひとつ、甦らせるのも夢じゃない」
二人は焚き火を挟んで、にやりと笑った。
その笑みは、かつてパーティーで味わったどんな作戦成功よりも、充実していた。
「なぁ、オルテガ。これってさ、もしかして――」
「ふむ?」
「ううん、なんでもない」
エルダは視線をそらしながら、薪をつついた。
夜は更けていく。けれど、かつて廃墟だったこの場所に、新たな“火”が灯りはじめていた。