表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/10

第4話:追ってきた者

ナジア村の朝は静かだった。鳥の鳴き声すらなく、聞こえるのは風が草をなでる音と、オルテガが木材を削るナイフの音だけ。


「うん……この梁は使えるな。雨露をしのぐには、まだ戦える」


 屋根を補修しながら、オルテガは独り言を呟く。それは誰にも届かない独白であり、孤独を紛らわすための術でもあった。


 だが――その時だった。


 「見つけた!」


 突如、草を踏みしめる音と共に、鋭い声が響いた。オルテガが振り向くと、そこにいたのは、一人の若い女性。腰まで届く赤褐色の髪に、ススだらけの作業服。手には金槌、背中には大きな道具袋。


「……君は、たしか……エルダ嬢?」


「“嬢”はやめなって。前に同じパーティーだったろ? あたしはただの鍛冶職人だ」


 彼女はオルテガの前に立ち、目を細めた。


「本当にこんな辺境にいたんだね。追放されたって聞いて……放っておけなかった」


「はは、追放されるのは三度目さ。慣れてるよ」


 自嘲気味に笑ったオルテガに、エルダは金槌をぐいと突きつけた。


「そういうとこがムカつくんだよ! なんでそんなにヘラヘラしてられるの!?」


 オルテガは肩をすくめた。


「感情的になっても道具は磨けないからね。怒りで釘を打てば、木材も傷む」


「……まったく、ほんと変なやつ。でも、だからこそ――」


 エルダは、ふうっと息をつき、視線を真っ直ぐに彼へ向ける。


「だからこそ、あたしは追いかけてきたんだよ。あんた、覚えてる? 昔、あたしに言ったこと。“道具は命を救う”ってさ。あたし、あの言葉に惚れたんだ」


 風が吹いた。枯草の香りが、二人の間を抜けていく。


 オルテガは少しだけ、目を見開いたあと、苦笑しながら答えた。


「惚れた……とは言っても、道具にだろう?」


「もちろん! でも、それを教えてくれたのはあんたじゃん」


 エルダは腰の袋をドサリと地面に置いた。


「鍛冶屋にとって、腕だけじゃどうにもならない世界がある。あたしはそれを知った。でもあんたとなら、もっと面白いものが作れそうな気がする。ここで、一緒に村を直そうよ」


「ふむ……では、君が来てくれるなら、資材の選定は任せられる。釘も再鍛造できるね」


「おっけー! じゃ、まずはこのクズ鉄からだな!」


 エルダの目が輝く。彼女の情熱と、オルテガの冷静な観察が交わるとき、何かが始まりそうな予感があった。


 かつて仲間にすら見放されたアイテム士。そのもとに、最初の“仲間”が戻ってきた。


「ナジア村再生計画、始動って感じかね」


「その名前ダサい! やり直し!」


 二人の声が、静かな廃村に響いた。


 廃墟の中に、小さな希望の音が確かに鳴っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ