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チカラに目覚めて

レティシア視点の過去回想となります。

 レティシアに、幼い頃の記憶はほとんどない。どんな親の下で生まれたかも、どんな環境で育ったかも分からない。

 ただ、物心がついたときには人身売買の商品となっていた。


 バルレラ王国において人身売買は認可されていない。つまり、これは非合法だ。貧民街の空地や、山間の洞窟などに設けられた闇取引市場にて、レティシアは盗品や密造品、密輸品などの商品とともに売られていた。


 物心がついてから、一、二年が経ったころだろうか。レティシアに買い手がついた。その買い手は髪が乱れ、顎にはあばら髭が生え、服が汚れやほこりで覆われた男だった。


 男に手を引かれ、市場の出口に向かって歩かされながら、レティシアは考える。


 これから何をさせられるのだろう。料理や掃除などの家事ならばまだいい。劣情や加虐心をぶつけ、発散するための人形となることを強いられるかもしれない。正直、恐ろしい想像はいくらでもできた。


 しかし、その先に待っていた未来はどれでもなかった。

 レティシアは窓がなく、ベッドと簡素なワゴンだけが置かれた部屋に通される。そのベッドに寝かされ、手足を錠で縛られ、腕に切り傷を作られたのち、その傷に謎の白い液体を垂らされた。


 次の瞬間、痛みに襲われる。


「あぁっ、あああ……‼」


 レティシアは苦悶の声を洩らしながら、激しく身をよじった。

 痛みは時間とともに和らぎ、やがて完全に消えた。だが、その行為は数週間おきにくり返される。その都度、レティシアは痛みに苛まれたのだった。


 そして、いつもの男が、いつもの時間に、いつもの液体を持ってやってきた、何度目かのことだ。

 我慢はもう限界に達していた。


 ──もうやめてくれ。もう痛いことや苦しいことはしないでくれ。


 レティシアが首を何度も振り、恐怖や忌避感を示した直後だった。

 全身が白く発光し、ダンッ! という音が響く。


 突如として、ベッドが前後で二つに割れた。ワゴンは宙に舞ってから落ち、砕ける。男は壁に叩きつけられ、気絶した。


「……」


 レティシアが割れたベッドの谷間でぽかんとしていると、騒がしい足音が聞こえてきた。


 何者かが部屋に飛び込んでくる。その者らは先端部分が十字架のようになった槍を握り、白と金を基調としたローブを身に付けていた。おそらく、レティシアをここに閉じ込めていた男の仲間ではない。


 一体、何者なのか──レティシアは疑問を抱くなか、意識を失った。



 †



 目を覚ますと、ベッドに横たわっていた。そのベッドは、レティシアが監禁されていた部屋にあるものではない。柔らかみのある木の枠で囲まれ、開け放たれた窓から爽やかな風が流れる部屋にあるものだった。


 ここがどこか分からず、レティシアは不安になる。

 しかし、羽毛をふんだんに使った掛け布団の温かさと、しばらく浴びていなかった陽光の温かさが、すこしずつ不安を和らげてくれたのだった。


 ふいに扉が開く。部屋に入ってくる三人の人物がいた。みな、白と金を基調としたローブを着ている。そのローブは、レティシアが気絶する寸前に現れた者らが身に付けていたものと似ていた。


 左右の二人は扉の前で止まり、中央の一人が近づいてくる。


 六十代ほどの男だった。体型はふくよかで、髪はクリーム色のショートボブだ。しっかり見ると、その男が着ているローブは他二人のものよりも派手だった。白色よりも金色の比率が高くなっている。さらに、ところどころに煌びやかな装飾が施されていた。


 レティシアを見て、その男は微笑む。


「おぉ、目を覚まされましたか」


「だ、れ……?」


 レティシアが不審の念を含ませた眼差しを送ると、男は柔らかい目を作った。


「私は、カミラ教の教皇を務めているオマール・グルレと申します。ここは、カミラ教の本部にある医務室ですよ」


「きょうこう……?」


「あぁ、すみません。ご存知ありませんでしたか。教皇は最も偉い人、ぐらいに考えてください」


 語りながら、オマールはベッドの傍らにあった椅子に腰掛ける。


「話せるようになって嬉しく思います。ようやくこれが言えますね。助けるのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。というのも──」


 聞くところによるとこうだった。


 レティシアを闇取引市場で買ったのは、バルレラ王国で勢力を広げつつあった盗賊団だったらしい。盗賊団は金がなる木を生むため、独自の麻薬を製造し始めたそう。その麻薬の効果を試す実験体として、レティシアは使われていたようだ。


 裏社会の事情に明るくなく、そもそもが常識に欠けていたレティシアは、話を理解しきれなかった。ただ、これだけはちゃんと分かる──耐えがたい日々から解放された。


 瞬間、痺れるような喜びが湧く。目蓋には涙が滲んでいった。


「さて、ここからが本題なのですが……」


 オマールが顔を引き締める。


「ひどく衰弱されていたので、眠っている間に身体検査をさせていただいたんです。すると、とある事実が判明しました。それは、あなたに天使の力が宿っているということ。天使というのは──」


 魔女戦争に言及しながら、オマールは天使の説明をする。


「監禁されていた部屋が荒らされた形跡がありましたが、それは天使の力が暴発したからでしょう。我々は、その力をカミラ教のために使ってほしいと考えております。世に蔓延る悪に裁きを下すお手伝いをしていただきたい。いかがでしょうか?」

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