33 屋台飯
「佑、辛いものは食えるか」
「突然名前で呼ぶなし!!」
「嫌ならやめるが」
「別にイイけど……あまりにも辛いのは苦手だな」
「ふ、では店主に控えめにと頼もう。そこな卓にて待つが良い」
「………………ありがとう」
商店街の裏路地から一気に表通りのメインストリートへ。いつも異国の香りを漂わせているタイ料理屋さんにやってきた。表側入り口からだとこう……『高級店です!』って雰囲気で近寄りがたかったから知らなかったが、店の裏で屋台を出しているようだ。
パイプ椅子やプラスチックの椅子が雑然と並んで、スチールの簡易テーブルが置かれている。
お酒を持ち込んでタイ料理をおつまみに飲んでいる人もいるし、女性数人でシェアしてキャッキャしてる人もいる。なんだかすごく楽しい雰囲気だ。
俺はあまりにも丁重に扱われすぎて居心地が悪い。まるで、女の子とデートに来てるみたいな感じなんだが。うーん、うーん、うーん。
テーブルの上にある除菌ティッシュでテーブルを拭きつつ、屋台で食べ物を買ってくれている伊達さんが注目を集めているのに気づいた。
「ねぇ!あの人めっちゃイケメンじゃない!?」
「眼帯してる...」
「癖です、どうもありがとうございます」
「すご、あの顔と対面してご飯なんか食べれないよ……」
ううむ、やはりか。伊達さんは顔の作りもそうだが、立ち居振る舞いから気遣いからやたらイケメンだよな。俺も見習いたいところだが、あいにく発揮できる容姿とは思えん。
冗談だとしても俺なんかと〝でえと〟じゃなく女の子と来ればいいのに。だが、タイ料理は憧れているものの一つ。食べさせてもらえるとなれば帰るわけにはいかない……!!
「待たせたな」
「うおっ!?びっくりした……わあぁ、すごい。何これ?何これ??」
「目を輝かせて……初めて食すか?」
「うん!本でしかみたことない!!」
「そうか、良い反応だ。辛味を少々弱めてもらったがどうかな。早速いただこう」
「いただきます!」
俺たちは手を合わせて箸を取り、カラフルなご飯にワクワクしながら手を伸ばす。
青いパパイヤの千切り、カニやエビ、トマトが入った和物にはナッツとそれなりの量唐辛子がかかってるぞ。
これはソムタムというやつだな、サラダマリネみたいなもんだ。
石臼で叩きながら千切りのパパイヤに味を染み込ませるんだが、甘い・酸っぱい・しょっぱい・辛いの融合が素晴らしいらしい。
白くてきゅうりみたいなパパイヤをわしっとつかむと、箸の先から硬めの感触が伝わってくる。そう、青パパイヤが安い沖縄で買ったことがあるんだが、皮が薄いのに中身が固かったんだよな……。
ナンプラーとココナツシュガー、パクチーやニンニクの香りが漂う。
口の中に入れると甘酸っぱい味が広がり、揚げエビとナッツの香ばしい香り、酸っぱいライム、パクチーの爽やかな風味が鼻に抜ける。咀嚼していると青パパイヤのコリコリした食感が楽しい。噛み締めるほどに味が滲み出て、海鮮の旨みが深い味わいをもたらしてくる。
甘さもそれなりにあるのにさっぱりしてるのは、ライムのおかげなのか?結構辛いけどついつい口に運んでしまう、あと引くお味だ。
レシピ本を見て作ったやつはどれも味が物足りない感じだったけど、こう……それぞれの味が強いのにバランスが取れてて、暑い日に食べたらもっと美味しいだろうなという感じだ。
酸っぱさが強めで味が濃いめ。でも癖になるぞ……。
「気に入ったようだな。辛さは問題ないか?」
「いや、このくらいなら……うんまい!」
「そうか、あとは串焼きと米の麺、豚足に海老を焼いたものだ」
「サテってやつか?米の...これはパッタイだな、豚足と海老のは初めて見た。醤油煮込みみたいになってるけど、やっぱり変わった匂いがするんだな。
海老焼きって皮ついたまま食うのか?」
「ああ。味がついて、よく焼いてある。皮ごと食えと言っていた。
辛いものが辛くなったら甘味を食すといい。餅米と果実、それから……」
「こ、これカノムトイじゃないか!?」
「あぁ、そんな名前だったな。米粉と木の実の汁、下に青豆の甘く煮たものが入っている」
「ココナツもちもちミルクプリン善哉じゃん!うおぉ、これ食べてみたかったんだ!!」
伊達さんは俺の興奮する様子を笑顔で見つめて、くだんのカノムトイのお皿を寄せてくれる。これはバナナの葉に乗せた小さなお猪口みたいな器に、米粉の入ったココナツミルクプリンが詰まってる蒸し物だ。
これ、食べてみたかったんだ。いつ知ったのかは覚えてないけど……めちゃくちゃ美味しいと聞いた。
「器が熱いぞ、気をつけろ」
「へ?そうなのか。……あちっ!」
「あぁ、気をつけろと言ったのに」
そうっと持ったつもりだったが、思っていたよりも器が熱くて思わず手を引っ込める。すると、手首を掴まれて伊達さんの氷が入ったグラスにそのまま突っ込まれた。
「大丈夫か?痛むか?」
「だ、大丈夫。料理してて火傷なんかしょっちゅうするし、そんなに心配せんでも平気だぞ」
「そういう事ではない。目の前に大切に想う者がいて、何かあれば助けてやりたいのが世の常であろう?
今少し我慢せよ、やけどは良くない。後々痕になってしまうこともある」
真剣そのものの表情で言われてしまい、なんだか頰が熱くなる。そりゃ、冷やした方がいいことは知ってるけど。
そんな風にされたことがないから、妙な気持ちになるだろ。
「お前の手は、沢山の人たちが望むもののために使われてきたのだ。今もそうしているのだろうが、自分を大切にせよ。ぞんざいに扱うことは許さぬ」
「……ふぁい」
「わかれば良い。食べさせてやろうか?」
「結構です!!」
そう叫んだものの、片手を封じられたまま……俺は結局アツアツスイーツを諦められなくて。伊達さんに食べさせてもらう羽目になるのであった。




