Last.夏休みの自宅
前の高校に別れを告げてから初めての夏休み。そんな記念すべき夏休みの初日に俺は……ダラダラと家で過ごしていた。
正直に言うと激動の1ヶ月だったので長期休みでしっかりと疲れを取りたい。リビングの床で外聞も気にせず寝っ転がれるのが幸せで仕方がない。
こうやって休めるのも今はソファに座っている恋人もとい妹のおかげだ。悠衣來が転校するように強請らなければたぶん俺はまた心身をすり減らすことになっていた。
「エアコンの温度たけーから下げんぞー」
「これ以上下げたら風邪ひくだろ、やめろ」
「ひかねーよ。半裸のお兄ちゃんと違って服着てんだから」
結局付き合うことになっても名前呼びはされていない。恥ずかしさもあるが、どちらかと言うとお互いこの呼び方が気に入ってるってのもある。
「あーはいはい……わかりましたわかりました、着ますよ」
「んだその態度……別にいいけどよ」
悠衣來は朝からずっとテレビを見ている。たぶん内容は頭に入っていない。本当にただボーっと見ているだけだ。
たぶんあいつなりに考える時間が欲しいんだろう。俺たちはこの1ヶ月であまりにもいろいろありすぎた。
「アイス買ってたっけ」
「……ないんじゃね」
「そうかぁ」
悠衣來は振り向きもしなければ考えるような素振りもしない。しかしそんな様子を見てたらいたずらごころが湧いてきた。
「愛してるぞ悠衣來ー」
「オレも」
「……」
即答されて逆にこっちが赤面させられる。あまりにも安直だったとはいえ反応ぐらいしてくれても良くないか!?
「あー……悠衣來と一緒の学校に行くのもう楽しみだわ」
「ふーん」
「ぅ……そ、そうだ。学校始まったら手繋いで登校しようぜ、恋人だしさ」
「やだ」
あまりにも即答が続くのでちょっかいを出すのを辞める。さすがに恋人にこんな素っ気ない態度を取られるのは精神的に良くない、心が沈む。
ていうか俺がダル絡みし続けたのもかなり良くない。恋人になったならよけいに相手の気持ちに寄り添わないといけないのに、いくら何でもしつこすぎた。
「はぁー……」
軽く息を吐いて気を取り直す。考え事をしているのなら俺もなにか考えよう。そうだな……これからのことでも考えるか。
といってもたぶん大して変わらないだろうな。次の学校も偏差値は前とあまり変わらないし。しいて言うとしたら菱原と白水との縁がまた薄くなることだろうか。
まぁでもあいつらも近所には住んでるわけだし、会おうと思ったらいつでも会えるだろう。その時が来るかは俺にはわからないけど。
思ったより心配事はないな。悠衣來との関係がバレたらとかそういうのはたしかにあるけど、それは考えたところで答えなんて出ないし。
でも……悠衣來はそうじゃないのだろうか。あぁやって悩んでいるのを見るとそうなんだろうか。
だとしたら俺は俺自身の気持ちを伝えなきゃいけない。心配なんてしなくていい、自分の思うままにしていって。
俺はもうそれを伝える勇気も言葉も持っている。
立ち上がって歩き、悠衣來の真後ろまで行く。俺が近づいても悠衣來は変わらずぼーっとしている。その静かな背中を後ろからがばぁっと抱きしめた。
「んっ……! な、なんだよ……」
悠衣來はぶっきらぼうに言うが声はちょっと震えている。それが愛おしかったのか抱きしめる力が自然と強くなる。
俺は耳元に口を近づけ、ずっと言うべきであった言葉をようやく言った。
「ずっと一緒にいてくれよ、悠衣來」
悠衣來がこちらに顔を向けることはない。でも触れていた肌がとても熱くなった。わかりやすいやつだな、でもそういうところが本当に大好きだ。
「……」
たしかに俺たちはまともじゃないかもしれない。でもそれでいい、誰になんて言われようと俺はそれでいい。
俺は悠衣來が好きだ、どうしようもないほどに悠衣來が好きだ。
「……んなの当たり前だろ」
悠衣來はようやくこちらに振り向く。
「オレたちは一生いっしょだからな、どこにも逃げたりなんかしねーよ」
悠衣來はとびきりの笑顔で宣言した。
「大好きだ、お兄ちゃん」
いろいろとありがとうございました。




