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23.夕暮れ時の屋上


 今年一番の猛暑となった今日、終業式を終えた俺は屋上に呼び出されていた。

 まあ呼び出しといっても男友達の長野がしたことなのでいらぬ心配をする必要もない。気楽に待ち合わせが出来るって幸せなことだな。


 しかしそれにしても遅いな。終業式が終わって8時間ぐらいここにいるが一向に来る気配がない。

 と言った矢先に来た。サッカーのユニフォームのままステップを踏むようにこちらに走ってくる。


「おーい三好……えっ、なんでそんな汗かいてんだよ」

「ずっとここで待ってたからな」

「えぇ……部活終わってから行くってメールしたじゃん」

「だっていつ終わんのか知らねーし」

「……三好ってたまに面白いことするよな」


 それは常識がないと言いたいのだろうか。だとしたら大正解だ。


「それで呼び出したってことは話があるんだろ」

「あぁ……うん」


 長野はどことなく寂しそうな笑顔を浮かべていた。まるで今生の別れの時のような顔でこちらもノスタルジックな気分になる。

 コイツがこんな顔するの初めて見たな。そんな深い関係というわけでもないけど意外な気分だ。


「やめるんだろ、学校」


 そんなことを考えてる中とんでもない話題がぶち込まれた。あまりにもあっけからんと言うのでこっちも反応が遅れた。


「転校、いや編入だっけ?」

「え、あ……な、なんで知ってるんだよ」


 たしかに転校するとは決めたけどそれはまだ先生と家族ぐらいにしか話していない。こいつが盗み聞きでもしてない限りは知るすべはないはずだ。


「水岡先生が教えてくれたんだよ、唯一の友達だからって」

「……それはそうかもな」

「認めんなよそこは」


 長野のツッコミで少し空気が軽くなる。でもそうか、いろんなイレギュラーの中コイツだけは変わらなかったな。


 それで言えば川村も該当するがあの日以来話したことはない。改めて思い返すとちょっと後悔が残る。


「辞める理由は聞かないのか?」

「家庭の事情とかいろいろあんだろ? そこまで無神経じゃねーよ」


 家庭の事情、たしかに考え方によってはそうとも言える。実際は超絶個人的な事情だけど。


 長野は手すりにもたれかかって夕焼けを眺め始めた。俺も何も言わずその横に並ぶ。


「夏休み中にすんだろ。挨拶もなしに」

「……そうだな」

「でもたしかに、お前の場合はその方がいいかもしれないけどな」


 どうだろうか、案外アイツラの反応もあっさりかもしれない。どんな反応をされようが意志が揺らぐことはないし、この想像に大した意味はないが。


「あんま深くねー付き合いだったけど楽しかったぜ、三好との時間」

「……俺も、楽しかった」


 俺の言葉を最後にお互いそれ以上の言葉は伝えない。静かな空間にしんみりとした空気が流れる。

 高校生活に思い描いていた青春が1年半経ってようやく体験できた。もっと早くにこいつに出会ってたらちょっとは変わったんだろうか、今となっては確かめようがないことだけど。


「長野、本当にありが……」

「先輩ーーー!!」


 感謝の言葉をけたたましい声が遮ってきた。サイドテールが見えた瞬間げんなりとする。


「盗聴……」

「葉森蒼夏ですっ!」

「おう」

「おうじゃなくてっ! 先輩、何をしようとしてるんですか!?」


 よく考えたら学校を辞めても盗聴器は一生埋まったままか。この先関わることはないだろうから別にいいけど。


「いきなり転校だなんておかしいです!」

「葉森さん、三好にも事情が……」

「理由が話せなくても転校することぐらいは言えるでしょう!」

「盗聴器取ってから言え」


 ここに来たのもどうせ盗聴器で得た情報からだろう。その分際でそんな言葉吐かれても心のどこにも響かない。


「……すいません、取り乱しました」

「ずっとだろ」

「もし先輩が新しい学校に行っちゃったら私のこと忘れちゃうんじゃないかなって……本当、怖くなって……」

「忘れたくても忘れねぇだろ、自分の体内に一生取り出せない盗聴器埋め込んだ奴とか」

「そうですか……嬉しいです、先輩の心のなかにずっといられること……」

「歪んだプラス思考だなぁ」


 でもたしかにこれでこの学校とも完全に縁が切れるのか。不思議だけど寂しい気がしてきたな、あんなに毎日が憂鬱で仕方なかったのに。

 心に余裕が出来たからだろうか、だとしたら悠衣來には感謝しないといけないな。


「……よく考えたら三好と俺は連絡先知ってるしいつでも会えるくね?」

「あっ、たしかに」

「えっ!? せ、先輩! 連絡先教え……!」

「絶対にいやだ!」


 そういえばクラスのグループチャットにも参加してたな俺。面倒くさいことになりそー。


「はぁ……」


 ため息が自然と出る。さっきまでの寂しい気持ちはもう完全に消え失せた。残されたのはこの学校を受験した後悔、それだけだった。


 次で最後です。

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