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22.休日の自室


 あの悪夢の金曜日から1日が経ち、体調はすっかり元通りになった。がしかし、悠衣來から安静にしておくよう指示された俺は昼になってもベッドから出れなかった。

 監視役として悠衣來は添い寝しながらじっと俺の顔を見つめている。ていうか俺が起きたときには既にもうそうしていた。


「こうやっとかねーと無理すんだろ?」

「……だとしても一緒に寝る必要はないと思うけどな」

「……一緒に寝たいだけだよ、悪いかよ」


 熱でも出てるかのような赤い顔で悠衣來は呟いた。それでなんとなく手を握ると優しく握り返してきた。

 心の温もりも伝わってくるようで……病み上がりには刺激が強い。このままだと本格的に悠衣來なしでは生きられなくなる。


「休みの日にこんなんでいいのかねー……」

「いーだろ、何もしねーのも大事だってテレビでやってたし」

「まぁ……そうか」


 納得したような、出来ていないような曖昧な返事。それでも悠衣來は優しく微笑む。恋人に向けるようなその笑顔を見て、何も言えなくなった。


「……好き」

「俺も」

「えー、ホントかよ」

「本当」

「……じゃあ大好き」

「どういう流れだよ」


 他愛もない会話のはずなのに妙な胸騒ぎがしていた。それは悠衣來と目が合うたびに強くなってきた。

 それでも俺は悠衣來の顔から目を離さなかった。離してしまったらその時、何かが爆発してしまいそうな気がした。


「ん……」


 悠衣來は目を閉じる。眠りにつこうとしているようには見えない。じっと見つめて様子をうかがっているとまた目が開いた。


「……ははっ」


 悠衣來は寂しそうな表情で笑う。そして突然ベッドから起き上がり、立ち上がって歩き出した。

 俺は胸騒ぎのせいか、それを呼び止めた。


「ちょっと待て悠衣來」

「……腹減ってんだから朝飯ぐらい食いに行かせろよ」

「あ、悪い。でもなんか、言いたいことあるように見えたから……」


 そう言うと悠衣來はいっそう寂しそうな顔になった。俺の心臓はバクバクと音を鳴らし始めた。

 なにか悠衣來に悩み事があるんだったら力になってやりたい。でも……俺に出来るだろうか、病み上がりのせいか妙に弱気だ。


「じゃあ言ってやるよ」

「……」

「そろそろ答え出してくんねーかな、オレの気持ちに」

「あ……」

「さすがに3週間もあったんなら出せっだろ? ムリかぐらいは言ってくれよ」


 突然、いや突然じゃない。なぁなぁにしてきたけどいつ言われてもおかしくなかった事のはずだ。

 悠衣來は待ったほうだ、想いを抱えてきた年月と比べたら十分なほどに……。


「あのプリン頭の人、幼なじみだったんだな」

「あ、あぁ……」

「……あぁやって家に女が上がってるとさ、怖いんだよ。オレの気持ちは忘れられたんじゃねーかって」

「……」

「ただお兄ちゃんが気使ってただけなら……あのキスも気持ち悪がられてたのかって……」


 俺は半ば無意識にベッドから出て悠衣來と立って向かい合った。その動作の途中悠衣來は一度もまばたきをせず、俺の目を見つめていた。

 そんな悠衣來の姿を俺は見たくなかった、させてやりたくなかった。そうさせたのが自分であることを受け入れられそうになかった。


「……悠衣來」

「なんだよ、振るならさっさと言えよ」


 ぶっきらぼうに言う悠衣來の目元には涙が浮かんでいた。瞳の黒は失望とも呆れとはまた違う諦めが占めていた。


「悠衣來、俺は……」

「っ……」


 悠衣來は唇を噛み締めて言葉を待つ。心を鬼にしなければならない、人間として、兄として悠衣來の気持ちに応えることは絶対に許されない。


 でも、俺の気持ちはそうじゃない。正直に向き合うとしたらこの言葉しか俺には残されてない……。


「俺は……悠衣來の事が好きだ」

「はっ、妹としてだろ? もういいから楽にしっ……!?」


 肩をつかみ引き寄せ、唇を重ねた。予想外の出来事に悠衣來も驚いたが、抵抗はせずただ身を委ねた。


「ん……ぁ……」


 舌を入れて、絡めて……何十秒もそうしていた。

 唇を離すと唾液で出来た透明の橋がお互いの口を伝った。最初は呆然としていた悠衣來も時間が少し経つと頭が働き出したのか表情が戻りだした。


「あ……い、今のって……ディープキス……」

「あぁ、そうだな」

「な、なんでそんな落ち着いてんだよっ……! オレらは兄妹……」


 言っている途中で悠衣來はハッとした顔になりこちらを見た。俺は何も言わず見つめ返して、自分ができる最大限の優しい笑顔をした。


「そ、そっかぁ……恋人なんだな、これで……」


 悠衣來は真っ赤になった顔に手を当てる。そして大粒の涙が目から溢れた。それを見てようやく俺も顔が赤くなり始めた。

 そうか、悠衣來とそういう関係に……ダメだ、俺が告白したのにまったく脳が追いついていない。


「うへへ……お兄ちゃんと……」

「おい笑い方……」

「いやだってよ……だってよー!」


 バシバシと俺の肩を叩く悠衣來。涙を流してはいるけど満面の笑みで……俺は一生忘れないんだろうな、この表情。


「つーかもうお兄ちゃん呼びやめろよ、恋人になったんだから」

「え……じゃあどうすりゃいいんだよ」

「呼び捨てに決まってんだろ、ほら早く」


 今度は俺が悠衣來に言葉を催促する。悠衣來は覚悟を決めたような表情にはなったが少し手が震えていた。


「勝、己……あークソ恥じぃー!! ムリ!!」


 悠衣來はさらに赤くなった顔を隠すように勢いよく抱きついた。その姿が愛おしくて俺は無意識に抱きしめ返した。

 部屋の真ん中で、悠衣來の腹の音が鳴るまでずっと抱きしめていた。


 もうちょっとだけ続きます。

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